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サァァァ…と雨が降りしきる。
先程リクオから連絡を受け、リクオのクラスメイト…鳥居夏実が四国妖怪の襲撃により病院へ運ばれたと連絡があった。
危ねぇからオレの所に来い、という答えに是と応えたが、通話を切ってからだいぶ時間が経っており紅葉は未だリクオの元には向かっていなかった。
一応臨時でも教師だ、鳥居夏実の様子を見に行かねばならないが、悪いが今はそれどころではないのだ。
「(…若に怒られるな、これ。
落ち着くまで家から出るな、とか言われないと良いけど)」
人気の無い路地裏で、傘も差さずずぶ濡れの紅葉は無造作に髪を掻き上げた。
「…うっとおしいわね。」
「そう、怒らんといて。折角の美人が台無しやで?」
「うっさい。アンタに美人って言われても嬉しくない」
「酷いなぁ」
100メートル程先にいる旧知の狐を睨む。
「アンタに聞きたい事があるのよ」
「紅葉ちゃんの質問なら何でも答えたるで」
「単刀直入に言うけど、アンタ…二代目の事で、何か関わっていたりしない?」
「…鯉伴?亡くなったやろ?
何で今さら…」
「…何も知らないのね?」
てっきり四国妖怪の事を聞いてくると思っていたのだろうか、糸目の彼はいつものようなとぼけた様子も無い。
どこか困惑すらしているようだった。
「…何かあったん?」
「何も知らないなら、いいわ。」
「紅葉ちゃん」
ふるふると首を振って踵を返そうとした紅葉を九緒が呼び止める。
「俺、基本的にはフリーやから玉章さんも承知で俺と手組んでいるだけなんよ。
紅葉ちゃん、奴良組に戻ったん知らなくて…それは悪かったと思うてる。
でも、紅葉ちゃんが望むなら、四国妖怪達の事以外でちょっとだけ手貸したるよ。」
「四国妖怪は駄目なの?」
「…ちょっと、ワケありなんや」
普段見せない、どこか悲しげな九緒に紅葉は虚をつかれる。
長い付き合いの中で初めて見る顔だった。
「……あたしが、アンタに助力を乞うとでも?」
「でも現に、紅葉ちゃんは俺に会いに来た」
「……………」
「ほら」
くす、と雨を滴らせて九緒は笑った。
「俺は紅葉ちゃん好きやから、君の幸せ願ってる。
だから君が息子君と幸せになるなら別に構へんよ、邪魔はしーひんから安心し。」
嗚呼、遅いから迎えに来てしまったのかと振り返らないまま背後に降り立った気配を感じて紅葉は九緒を見つめた。
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