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「待たせましたね」
パタンと執務室に入ってきた部屋の主人は奥にある自分の席に座り、机の前に立つ黒ずくめの人物に話しかける。
黒マントにフードを被っているその人物は、顔までしっかり隠れている為その表情は見えない。
始めから執務室の扉両脇に立っている鴉と呼ばれたその者達も、黒マントの人物が以前からこの中央庁にいると存在を認識していてもそれが誰かは分からない。
「…いえ」
男とも、女とも取れる声。
その人物に関して彼らが一つわかるとすれば、自分達のトップである、座っている男の『お気に入り』という事だけだ。
「なかなか惜しいですが……あなたは今日限りで移動してもらいます。」
「は…」
「配属先はーーーー黒の教団。」
「…それは、あたしが適合者だから、という事で宜しいでしょうか」
『あたし』と言った人物に女と推測される彼女は、抑揚の無い声で問いかける。
「今は私が話しています。返事以外は黙りなさい。」
「…申し訳ございません。」
「まぁ良いでしょう。
その質問の答えはYesです。
貴女はエクソシストだからです。
その為に始めの2年と、間の1年間は貴女の師に預けていたのですから。
分かりましたね?」
「…御意」
師、と口にされ女の脳裏には自分を拾ってくれた恩師を思い出した。
中央庁に配属されればどうなるのか分かっていただろう彼は、久し振りに会った自分を見て「悪かった」とあの彼にしては珍しく謝罪していた事を覚えている。
それも大分前の話だが、少しでも師が後悔していたのだと知って不謹慎にも当時久し振りに何か温かい感情が湧いていた。
感情を忘れてしまった自分には、それが何か分からないが。
基本的には女性に優しい師匠だ、子供だったとはいえ思うところがあったのかもしれない。
「それと、貴女には朗報ですよ」
「朗報、ですか」
「初めに貴女が私に出した『条件』に関する話ですが…
彼らの足取りを掴む情報が入りました」
「!」
無機質に聞いていた彼女は本日初めてピクリと小さく反応を見せた。
「…それほど、彼らが気がかりですか」
「………………」
「まぁ、彼らと貴女の間柄の事に関しては一切口を挟まない約束です。
それは守りましょう。」
「…お気遣い、感謝致します。
ルベリエ様。」
「彼らも必要以上の関係は嫌がるでしょうからね」
ルベリエ、と呼ばれた男は机の引き出しから黒いバインダーファイルを取り出す。
開いて中身をパラパラと捲った後、そのまま閉じた。
「生きている情報は入りましたが、それ以外に関してまだ確証は無いため貴女には伝えません。」
「、」
「なので、貴女は新しい配属先にて任務を遂行しなさい。」
「…御意」
今夜中に移動するように、と言われ部屋を後にする。
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