D.gray-man | ナノ


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「「「「どわぁああぁあぁあぁぁ!!」」」」

「ぐぇ…っ」





穴から落ちたアレンは一番下のリナリーを押しつぶさないように上から降ってきたラビ、チャオジー、神田、クロウリーののしかかってきた衝撃を一人受け止めた。





「ビ…っ…ビックリしたである〜…」

「チッ」

「う"ぉえぇぇっ」

「つっ、潰れるぅー!!(何でボクとリナリーが下に…!?)」




何故先に吸い込まれた順で無いのかとアレンが疑問を感じながら身体を支える。
アレンの上から降りた4人が頭を抱えながら辺りを見渡すと、白い住宅の並ぶどこかの街並みのようだが植物が飾られているわりには人の気配は微塵も感じられない。


アレン以外には見覚えのない場所だった。






「何だこの町は」

「!ここ…方舟の中ですよ!!」

「ええっ!?」

「う〜…」





なんでンなところにいんだよ、知りませんよ、とお互い苛立ちの炎と火花を散らせながらアレンと神田が睨み合っている中、ラビは頭を抱えながら周囲を見渡す。


アレン、神田、チャオジー、クロウリー、リナリー…




「(ヨリがいない…?)」





一番最初に落ちた筈のヨリの姿がない。
通路の前後を見渡してもどこにも彼女の紅は見られず、ざわざわと胸中を嫌なものが広がっていく。






「…お、おい!?リナリーの下に変なカボチャがいるさ!」

「ハッ」





ヨリの安否が気になりながらも側で倒れているリナリーを起こすとその下にはカボチャ頭の傘が平たくなって潰れていた。


カボチャはパチッと目を開ける。





「どっ、どけレロ!クソエクソシスト!ぺっ!!」

「喋った!」

「「お前か…」」

「キャーッ!!」






カボチャ頭の傘ーーーーレロが距離を取ろうと下がりかけた瞬間、アレンの左手と神田の六幻がレロの首を捉えた。






「スパンと逝きたくなかったらここから出せ、オラ」

「出口はどこですか?ヨリはどこへ?」

「ヨリたま!?お前らヨリたま連れて来たんレロか!?
ヨリたまがいるなんて聞いてないレロ!!そんなのこっちが聞きた…、ヒッ…でっ、出口は無いレロ!」





ギャンギャン騒ぎ立てる傘にチャキ、と刀を押し当てられぶるぶると震えながらレロが3人の質問に答える。





『船は先程長年の役目を終えて停止しましタv
ごくろう様ですレロv
出航です、エクソシスト諸君v


ーーーーお前達はこれよりこの舟と共に黄泉へ渡航いたしまぁースv』





カパァ、とレロの口から巨大な千年伯爵の風船がいくつかの丸い風船と共に吐き出された。




『ドンッ』




風船の千年伯爵の声と同時に辺りの建物が崩れ始めた。




「!?」

『危ないですヨv

引っ越しダウンロードが済んだ場所から崩壊が始まりましタv』

「は!?」

「どういうつもりだ…っ」

『この舟はまもなく次元の狭間に吸収されて消滅しまスv
お前達の科学レベルで分かり易く言うト……


あと3時間。
それがお前達がこの世界に存在してられる時間でスv』





ドンッ



近くの建物が崩壊する中伯爵は続ける。




『可愛いお嬢さん…良い仲間を持ちましたネェv
こんなにいっぱい来てくれテ…
皆がキミと一緒に逝ってくれるかラ淋しくありませんネv

【乙女】は回収するつもりでしたが…まぁこの際別に良いでしょウv
彼女に関しては自分の意思で来て貰わないと困るのデv』

「伯爵…っ」




ラビに支えられながら目を覚ましたリナリーがふわふわと空へ上がっていく風船姿の伯爵を睨む。




『大丈夫…v
誰もが悲しい思いをしないよう、キミのいなくなった世界の者達の涙も止めてあげますからネv』






それを最後に伯爵の風船は空の向こうへと消えていった。
ドドドド…、と地面が揺れ近くの建物が崩壊し始める。





「とにかく崩壊のしていないところへ向かいながら出口を探しましょう!
ヨリがいないのも気になりますし、近くにいるかもしれません!!」





ドンッ



そう言っている間も近くの建物がどんどんと崩れていく。
他に成す術も案も無い為非戦闘員のチャオジーとリナリーを守りつつ、アレン達で建物の壁を次々と破壊しながら先へと進んだ。




しかし、崩壊していく箇所を避けむやみやたらに建物を壊しても出口らしきものが何時まで経っても出てこない。
既に数十軒の建物を破壊したのでは、という頃に一度上がった呼吸を整える為にアレン達は動きを止めた。





「ハァ…」

「ゼェ…」

「どこかに外に通じる家があるハズですよ!僕それで来たんですからっ」

「無理レロ!」

「ってもう何十軒壊してんさ!!」

「この舟は停止したレロ、もう他空間へは通じてないレロって!!

マジで出口なんて無…」






ゴッ、とりナリー以外の全員の拳や蹴りがレロを襲う。
焦っている中飄々を周囲を浮いて必死な自分達を止めようとしているのだ、煩わしくなるのも無理はない。

こちらへ向かってくる地割れにリナリーがハッと息を呑む。





「危ない!!」

「!!!」





ゴゴゴゴッ…ズァッ…!!





アレン達のすぐ側に地割れが走った。
間一髪で巻き込まれるのは回避したが、崩れかけの瓦礫でバランスを取りながらアレン達は言葉を失う。






「……っ」

「無いレロ…ホントに。
この舟からは出られない。

お前らはここで死ぬんだレロ」






レロの言葉が一同の耳朶に刺さる。




ーーーーーー刹那。







「あるよ。



出口、だけならね」






どこかで聞いた、ここにいる者以外の声がアレンのすぐ側で響いた。
アレンはゆっくりと振り返る。




こちらへ振り返るアレンに声の主はもう一度言った。




「出口はあるよ、少年」





そこには、いつぞやに列車の中でポーカー勝負をした、ビン底眼鏡の黒髪の男が煙草を蒸かせて膝をついてアレンを覗き込むようにして笑っていた。
アレン達が一瞬唖然と男を見つめ、アレン、ラビ、クロウリーが口を揃えた。






「「「!!!

ビン底(メガネ)!!!」」」

「え、そんな名前?」

「ななっ?
なんで?なんでここにいんの!?」





急にこちらを指差した三人に男はビクッと驚くが、それ以上に顔見知りの三人の動揺が大きかった。
そんな奇妙な再会を果たしていると、神田が六幻を抜ける状態にして低い声で口を開く。






「おい。
…そいつ、殺気出しまくってるぜ」

「………」






男は笑った。
指で煙草を挟んだ手をアレンの頭にポム、と優しく置く。





「少年、どうして生きてた…?



のっ!!!」




ゴッ!!





「〜〜〜っつ」





アレンの頭を引き寄せながら男がアレンの顔面に勢いをつけたヘッドロックをお見舞いすると普段鍛えるには難しい顔面を襲う痛みに全くの無防備だったアレンは顔を抑えて声にならない声を上げてうずくまった。

笑みを浮かべながらも怒りを纏っている男の額からもシュウゥ…と煙が浮かんでおり
、如何に強烈な頭突きだったかが伺える。





「千年公やチビ共にさんざん言われたじゃねェかよ〜」

「なっ、に、を、言っ」





涙を浮かべながら横目で男を睨んだアレンは目を疑った。



目の前の自分に頭突きをかました男の肌がスッと塗り替えられていくように白から黒褐色へと変化する。
同時に特徴的だった眼鏡を投げ捨て、煙草を持ったまま無造作に髪をかき上げると額にいくつもの十字が連なったようなーーーー聖痕を額に浮かべたノアの一族・ティキがそこにいた。
ティキは不敵な笑みを浮かべながら煙草を蒸かせ煙を吐きながら口を開く。







「出口欲しいんだろ?
やってもいいぜ?

この方舟ふねに出口はもうねェんだけど、ロードの能力ちからなら作れちゃうんだな出口」





そう話すティキの手には黒い小さな鍵が乗せられていた。
直後、ティキの背後から小さな冠が乗ったハート型のチェック柄の扉がキィィ…と耳を劈くような甲高い音を立てながら地面から出現する。





「!!?」

「(地面から扉が…っ!)」

「レロッ
その扉は…!(ロードたまの扉!!?)」

「うちのロードはノアで唯一方舟を使わず空間移動できる能力者でね。
…あぁ、恐らくヨリも近い能力は開花し始めてんのか。ま、覚醒したとしても方舟やロードみたいな大規模な空間移動は無理だろうけど。」





数時間前、ヨリがリナリーの前に現れた時の事を言っているのだろう。
ふと思い出したようにそう言いながらパチンッと指を鳴らすと、ティキの頭より少し上の空間が円状に光り出し意識を朦朧とさせたヨリが落ちて来たのを視認してラビが目を見開く。






「ヨリ!!」

「ヨリっ…!」

「うわっ…さっき抱えた時はあんまり気にしてなかったけどお前軽過ぎ。ちゃんと飯食ってる?」

「…ホームレスよりは…食事に、困ってなくてね…」

「はは、言えてる。
ってかお前久々に兄妹の再会だってのにお前といい梓といい冷たくね?…まぁいいか。」





律儀に返してくれるものの喋るのも億劫そうなヨリに微苦笑を溢して自ら会話を中断させたティキはヨリを抱え直してアレン達に視線を戻す。





「というわけで…ど?あの汽車の続き、こっちは"出口"お前らは"命とヨリ"を掛けて勝負しね?

今度はイカサマ無しだ、少年」

「!」

「どっどういうつもりレロ、ティッキー。
伯爵たまはこんなこと…」





尚も口を挟むレロを総無視してティキは続ける。






「ロードの扉とそれに通じる4つのキー、これをやるよ。
案内役はヨリだ。

考えて…つっても四の五の言ってる場合じゃねェと思うけど」





ドガァッ!!




ティキの頭上に崩壊した建物の一部が落下した。
咄嗟に腕を交差させ揺れる足元と衝撃風に耐えながらティキとヨリのいた場所を見る。





「ヨリ!!」

「ティッキー!!」

「たっ建物の下敷きになったである」

「!」





キンッ、と金属の弾く音が小さく聞こえ、キラリと視界に光るものを確認した神田はこちらに飛んできたそれを反射的に掴み取る。
それと同時にラビの頭上に先程ヨリが落ちて来たものと同じ穴が現れ、再びそこからヨリが落ちて来た。






「ヨリ…!」

「エクソシスト狩りはさ…楽しいんだよね」





ラビは咄嗟に手を伸ばしてヨリを受け止める。
すぐ側で神田が手に取ったものを確認するとそれは先程ティキが持っていた鍵だった。



どこからかティキの声が木霊する。





「扉は一番高い所に置いておく。
崩れる前に辿り着けたらお前らの勝ちだ」

「ヨリは妹だと聞いています。何故わざわざ手放すような真似を?」

「俺だって連れていけるなら連れて行きてぇんだけど、何でか知らねぇけどうちの梓が一度お前らに返してこいっつーから。
ま、覚醒前でもヨリのメモリーが上までの道案内してくれるだろうから、ハンデとして"仕方なく"お前らに渡しといてやるよ。
ま、どーせお前らが負けた瞬間ヨリはこっちで回収するし」

「もうひとつ。
ノアは不死だと聞いていますよ、どこがイカサマ無しなんですか」





崩壊が迫っている中ぐったりと力無くラビに身を預けているヨリを見つめ、アレンが少し焦ったように早口でどこかにいるティキに問いかけた。





「あははははははははっ!!」

「!?」

「っと、失礼。
何でそんなことになってんのか知らねぇけど、オレらも人間だよ?少年。
死なねェように見えんのは、お前らが弱いからだよ!!!」




ドドンッ!!





「「「!!」」」

「うわっ」

「ヤバイ走れ!!」

「崩壊の弱い所に!!」

「きゃっ…」




足元が崩れ出し一同が一斉に駆け出す。
まだ歩くのもやっとなリナリーは間に合わず足元が崩れ出し空中に投げ出された瞬間、アレンがリナリーの許へ跳躍しリナリーを受け止めた。




「!!」

「掴まっていてください」




崩れる足場を跳んで崩壊していない場所まで運ぶ。
横目でそれを確認しふと弱く胸を押される手の感触にラビは腕の中のヨリに視線を落とした。




「ヨリ…」

「あたし…を、降ろして…」

「!
お前片翼無いんさ、飛べないのに何言って…!」

「……貴方は、優し…すぎる」




まだ苦しげに表情を歪ませていたヨリはどこか泣きそうに目を細めて小さく笑う。


彼女の言いたい事を理解したラビは隻眼を見開いた。





「お前…」

「…もし迷っているなら、最善を、選んで」

「!」

「"バランスを崩して、放してしまった"と、…皆に、言えば…いい。
大…丈夫、兄様は…あぁ言っていたけど…あたしがいなくても…上まできっと…辿り着ける、から」





ギリ…とラビは奥歯を噛み締めた。
彼女の言っている事はわかる。そうした方が良い事も、それを彼女が望んでいる事も。
でもーーーー




「…ヨリ。オレの我儘、聞いて…?」

「何…?」

「……少し、オレに時間を頂戴?
もう少しだけ…悩む時間が、欲しいんさ。お前を苦しめる事になるかもしれねェけど」

「…悩まなくていい」

「ヨリ」





語句を強めたラビの制止にヨリは口を噤んだ。





「…頼む」

「…貴方が、望むなら」





弱々しくも愛し気に翡翠と金が絡んだ。





「………」





瞼が震える。翡翠と金、視界が滲んだのはーーーーー






to be continued…
→懺悔室

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