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「お嬢の髪はさらさらで綺麗ですねぇ」
朝食後に八重花の髪を梳かしていた霧島は呟く。
2つに分けて結びながら続けた。
「……いやぁ本当に、俺が触らなければ綺麗なままでしたよ…」
ぐちゃあ…と崩れたツインテールに八重花は難しい顔をして、するんと髪ゴムを外した。
「…もういい。
今日は結ばない。」
「ですよね…すいやせん」
簡単に見えてできねぇもんだな…と霧島が悩んでいると後ろからブフォッと吹き出す声が聞こえた。
振り返れば物陰から覗いて笑いを堪えている杉原と杉原を見て呆れた顔をしている奏音が立っている。
吹き出したのは十中八九、杉原だろう。
「いや違うんです、あの霧島さんが女の子一人に苦戦してるの面白いとか思ってないですよ!?やだなぁ」
「恵、全部吐いてるよ」
「杉原ァ、てめぇ無駄に長え髪してんなぁ…」
「えっ?」
「………八重花ちゃん、おいで。
結んであげる」
「奏音ちゃん…!うん」
杉原に詰め寄る霧島と入れ違いでサッと八重花の部屋に入った奏音は八重花の髪を梳かしていく。
霧島は杉原の長い髪ひ千切れんばかりに引っ張りながらにっこり笑って凄んだ。
「ちょっと後で付き合ってもらおうか」
「ア“ア“ア“ア“!!やめて引っ張らないで千切れるハゲる!!
奏音さんも俺と同じくらい髪長いじゃないですか!!」
「下手な事して奏音の髪が痛んだらどうすんだてめぇ」
「俺は良いんすか!!?」
「はい出来たよ」
「…ありがとう」
綺麗に纏まったツインテールに八重花は嬉しそうに笑った。
「透、一人で大丈夫?」
「奏音さん俺を何だと思ってるんですか。
じゃあ行きやしょうか、お嬢」
靴を履いた霧島と八重花に奏音は心配そうに見つめる。
その横には彼女の兄で八重花の父親である組長・桜樹一彦と杉原が見送りに来ていた。
「霧島、昨日の話を忘れてねぇだろうな。
テキトーな真似して八重花に何かあったら…」
「大丈夫ですよ、兄妹揃って心配性だなぁ」
霧島は肩越しに振り返って桜樹兄妹に視線を投げかける。
「ちゃんと仕事するんで、早起きしちゃった組長は奏音さんと杉原と茶でも飲んでて下さい。
行ってきまーす」
「…いってきます」
「行ってらっしゃい、二人共気をつけてね」
奏音も初めは着いて行くと訴えていたのだが一彦に睨まれた霧島が苦笑いで一人で行くと申し出を断ったのだ。
「大丈夫かなぁ……やっぱり私着いて行った方が…」
「奏音、仕事だ」
「…わざとでしょ。
良いけど…」
ぱさ、と数枚の書類を渡された奏音は小さく息をついてそれを受け取った。
一番上の紙だけさらっと読み流す。
「恵、家にお茶届けてくれるー?」
「あっハイ、分かりました」
「ついでに髪の傷みに良いクリーム貸してあげるね」
「いやいや奏音さんそうなる前に霧島さん止めて下さいよ!?」
ふふ、と笑いながら奏音は杉原と一彦にひらひらと手を振ってその場を後にした。
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