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「お嬢ー!!」
「いやすかお嬢ー!!」
冬の夕方の河川敷、黒スーツの二人が白くなっている芝生を走り回りながら誰かを探しているのを学校帰りの霧島は見つけた。
「(……ヤクザ?
…さみぃのにご苦労なこった…)」
「お嬢ー!!いたら返事してくだせぇー!!」
「!」
嫌な予感がし、とっとと帰るかと視線を滑らせた時ヤクザの一人とばちっと目があった。
あ。と思った時には既に遅く。
「それは!」
「は?(俺ヤクザに知り合いなんていねぇんだが)」
「それはお嬢と同じ学校の制服!」
「制服?」
「失礼!お嬢を見かけやせんでしたか!?」
「いや聞かれてもお嬢、お嬢って分かるわけねぇだろ…」
「桜樹奏音さんという名前です!」
「あ…?桜樹?」
人の顔を覚えようとするのが苦手な霧島でもその名は聞いた事があった。
「(あぁなるほど…桜樹奏音の家ってあの桜樹組か)」
話した事は無いが学校でもなかなか有名だ。
ヤクザの家というわけではなく、入学当初から成績優秀、容姿端麗、文武両道という良い意味で。
また、自称親友と抜かしているオネェがよく話しているのも見かけるからでもある。
一人納得しながら、霧島はふと疑問が浮かぶ。
「…桜樹奏音が何か?」
「お迎えに上がったんですが学校にはいらっしゃらず……っいや、失礼…お嬢の場所に心辺りがないならお気になさらず」
ありがとう、と去って行くヤクザ2人組に霧島は胸騒ぎを感じながらも自宅への足をゆっくり動かした。
途中コンビニで夕食代わりのホットケーキを適当に購入し自宅まであと5分、という所でそれは起こった。
「…………」
自宅の近くにある見たことの無い黒い高級車。
閑静な住宅街の一角だ、完全に景色から浮いているので嫌でも目につく。
車に人の影が動くのが見え、霧島は咄嗟に足を止め身を隠した。
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