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「真と理…?」
何だそれは、と言わんばかりに弥七が呟いた。
如月の顔は"そんな事も知らんのか"と言いたげにむす、としていたが彼女の常識で事を測られても普通の人間に通じるわけが無いので薬売りが説明する。
「"真"とは事の有様、"理"とは心の有様。
何かが有り、何者かが何故にか…怒り、恨みを持っている。」
「何で、それを聞くんだ…?」
「退魔の剣が抜けんのだ。モノノ怪の正体…"形"とさっき薬の字が言った"真"と"理"が揃わんとな。」
「退魔の剣とは何か聞いても宜しいか?」
宝山に問われ、薬売りの視線を宝山が受ける。
「退魔の剣とは、モノノ怪を斬る剣。"形"、"真"、"理"を明らかにせねば…剣に力は宿らず、モノノ怪は斬れない。」
「成る程。さぞかし、お二方はそのモノノ怪とやらを退治る為に旅をしていると見た。」
「…無駄な詮索はするな、貴様。」
「如月。」
ガルル…と鋭い目付きと共に低い唸り声を上げると、薬売りは如月をすかさず制した。
「おやめ…。」
「薬の字、」
「やめろ…と言っている。」
「………」
渋々引き下がった如月を見て、宝山ががっはっは、と豪快に笑う。
すぐ横の経衛が青ざめてあるがお構い無しのようだ。
「随分威勢の良いお嬢さんだ。
まるで、獣だな。」
「!」
瞠目する如月に宝山が品定めするかのように上から下までじっと見る。
「宝山様それはあちらの女性に失礼で御座います!」
経衛が真っ青にさりながら注意すると、如月を見ていた宝山の視界に薬売りが割り込む。
「ん?」
「彼女への無礼は頂けません、ね。
如月は…れっきとした人間です、よ…。」
「…おぉ、スマンスマン。冗談だ。」
如月からは見えないが威圧するような薬売りの視線に身を引いた宝山は話を切り替えた。
「で?"真"と"理"とやらを解明せねばならんのだったな。」
「…えぇ。"形"が掴めない以上、先に"真"と"理"から…明らかにしたいと思うので。」
その時だった。
ピチョン…
ピ チャン…
「「!」」
「ひぃっ」
「嫌ぁ…!怖いっ…!!」
「お姉ちゃん…」
「信太っ…!」
「帰してぇ…!」
「ほほほ宝山様…!」
「落ち着け。…水の音、か?」
突如辺りが暗くなり、水滴の撥ねる音のみが全員の意識を支配する。
出来るだけ皆を一箇所に集めた薬売りは傍に如月が寄った気配を感じ、辺りを警戒したままチラリと一瞬だけ視線を投げかけた。
ピチャンッ…
「薬の字…来るぞ。」
ピチャ ン…
「何処からか…分かりますか?」
パシャ…ン…
「何かが邪魔して分からん。だが、近いぞ。」
ーー刹那。
「!薬の字!
下だっ!!!」
バシャンッ
「嫌ぁぁあっ!!」
「常ちゃん!!」
下から現れた昏い何かにお常は一瞬にして呑み込まれ、どぷん、と水の中に落ちるような音がお常のいた場所から聞こえた。
お常が消える瞬間、咄嗟にお弓が手を伸ばしたが如月が彼女に腕を回しお弓の手はお常に届く事無く虚しく空を切っただけだった。
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