02



ぶるり、と思わず俺は身震いをする。
小平太を信じていないわけじゃない。
帰って来ないと思っているわけではない。
そうじゃないけど…

「心配するな名前!」
バシバシと俺の背中を叩いて、小平太が豪快に笑う。
「絶対に私は戻ってくる」
何の躊躇いも無く言い切った。
「そんで無事卒業して、一緒に長屋なんか借りてさ!仕事して〜マラソンして〜塹壕掘って〜。そうだ!体育委員会の奴等を、私達の新居に呼んでやろうな!」
さも名案だとでも言うように、きらっきらと瞳を輝かした小平太が俺を見遣る。

今、もげんばかりに全力で尻尾を振られている気がする…。
というか、一緒に住む事決定なのかとか、マラソンや塹壕掘りって今と変わらねぇのなとか、寧ろ未来のお前成長してなくね?とか、突っ込みたい所が満載過ぎて逆に絶句した。

「そんで、じぃちゃんになってどっちかが先に“もうダメだ”ってなったら、はぐれてしまわないように仲良く手を繋いで、一杯名前を呼んで、口吸いして。で、口吸いに夢中になっている内にぽっくり逝くんだ!」
と、矢継ぎ早に話す。
最後の方は言い切った晴れ晴れしさすら感じた。

何だそれ、爺になるまで一緒だって信じているのか。
爺になっても盛っているのか、俺等は。

小平太の言っている事が一々可笑しくて可笑しくて、俺はくっくっくっと笑いを噛み殺して涙を滲じます。


「“はぐれてしまわないように”ってのは何なんだ?」
誤魔化す様にごほんと軽く咳払いをして問う。

それ死ぬぞって時に逃亡なんて出来るわけもなく、はぐれる要素が見当たらない。
小平太の中では、どんな波乱な状態での最期を想像しているのだろうか。

「“はぐれないように”は、はぐれない為に決まっているじゃないか!莫迦だなぁ名前は」
「お前に言われたくねぇよ!というか答えになってねぇ!」
意味が分かんねぇ!と、俺はガシガシと頭を掻く。
「手を繋いでいれば、あっちに逝くのにはぐれないで済むだろう?名前を呼んでいれば、忘れないだろう?口を吸えば、気持ちがいいだろう?」
一つひとつ説くように、先程の言葉を指折り振り返る。
「そうすれば、来世で会った時も、私は名前を覚えていられる」
にっこぉと、締まりの無い顔で笑われた。
「ぶはぁッ!」
ついに堪え切れずに吹き出してしまった。
「あっはっはっはっはっ!!意味分かんねぇ!でも、小平太らしい理屈だなぁ」
捩れる腹を抱えて一通り笑うと、ふぅと落ち着かせるようにひと呼吸する。

「小平太、お前は輪廻転生を信じているのか」
“来世で”だなんて、小平太に似つかわしくない言葉が妙にくすぐったかった。
「りね、てんせ?」
上手く聞き取れなかった小平太が半笑いの口の形のまま、ぱっかーんと間抜けな面をして寄越した。
「りんねてんせい、だ。死んであの世に還った魂がこの世に何度も生まれ変わってくることだ」
「そうか、初めて聞いたぞ!だけどそんな事信じなくても、名前とはまた会えるから大丈夫だ!」
そう言って再びバシバシと背を叩かれる。
「痛てぇッ馬鹿力!なんだその根拠!」
「ガハハハッ!細かい事は気にするな〜!」
もう叩かれた背が痛いのか、支離滅裂な話が可笑しいのか分からず、零れた涙を気付かれぬ様にと人差し指の背で拭った。



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