03
昨夜も散々泣いたというのに、涙というやつはなかなか厄介だ。
意志とも量とも関係なく、勝手に溢れる。
事、好いた相手の前だと嬉しい時も悲しい時も不安な時も怒りを覚える時も、様々な形で涙が出てくる。
まるで窮した言葉を補うように、呑み込んだ言葉を吐露するように。
愛おしい愛おしいと、涙の一粒一粒が語り掛ける。
すんっと鼻を啜る。
留三郎は急かすことなく、そんな俺の言葉をじいっと待っていた。
「迎えに来てよ。俺を、お前の元へ連れて行って」
振り絞った勇気と、まさに絞り出したような声。
しかし確かに、留三郎の耳に届くようにと想いを込めた声で届けた。
「直ぐには無理かもしれない。けど、留三郎の気持ちが変わらないでいてくれたなら…必ず、必ずお前の元へと帰るから」
懇願するように留三郎を見つめる。
俺を見つめ返す留三郎の瞳には、もう、少しの揺らぎも無くなっていた。
「…家は、家業はどうするんだ?捨てるのか」
ぐっと眉間に皺を寄せて俺を探る。
「ううん、捨てない。捨てるもんかよ」
あははっ、と苦笑を零す。
「家族や幼馴染に此処までの恩があるのに、流石にそこまで鬼に成れねぇな俺も」
だけど、お前をみすみす諦められる程、想いが浅いわけでもない。
想いが通じ合ったんだから万々歳じゃねぇか!と、いっそ花を飾って潔く別つのが理想なんだろうけど。
生憎と、そう聞き分けの良い事が出来ない。
仮に出来ていたら、ここまで悩んでずるずるしないで済んでいたはずだ。
喩え滑稽でも、夢物語でも口にせずにはいられないお前との未来。
それに縋ってみても…いいか?留三郎。
「家業は、完全に弟が受け継げるように尽力をつくす。説得も頑張る。…弟や幼馴染の意思を聞いたわけじゃないから見切り発車な話だとは重々承知だ。だけど、頑張りたい。この先も、お前と共に居たいんだ…」
ぼろっと、堪らず涙が零れる。
「…そうだな」
静かに答えて、留が俺の頬に伝った涙を拭う。
「俺も協力する。出来る最大で足掻いて、そうして切り開ける途があるのかもしれねぇ」
ふっと、留三郎が遠くを見つめるように瞳を眇めた。
「いいな、残りの人生お前と過ごすのも。毎日賑やかで堪らねぇんだろうな」
くっくっくっ、と、口元に手を当てて笑う。
「あぁ、覚悟しろよ?」
つられて俺も笑みを零す。
「お前が忍として働いて、俺は今まで学んできた農商業や忍術を活かして商売して情報を得る手伝いをする。そんで、お前が忍務に行っている間、俺はお前の帰りを待つんだ。お前と俺の家で」
想像した未来に胸がいっぱいになり、再びぽろりと涙が走る。
「連れてって。お前の行く先々に」
再び、渾身の想いを込めて抱きつく。
それを抱き返す留三郎の腕の強さに、一瞬息が詰まった。
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