07




「…ふざけんな、されるがままになんて、なってやるかよ」
するり、と、留三郎の袷に手を差し入れた俺の手首を掴むと、ぐんっと力強い瞬発力でその身を反転させる。
「えぇ〜〜〜、ここまで来てそりゃ無いよ〜」
力では到底勝てない俺は、あっさりひっくり返されて情けない抗議を口にする。
「ははっ、様ぁねぇな。俺は大人しく抱かれてやるなんて言ってねぇぞ」
その吹っ切れた様子の瞳の中に、ゆらり、と劣情の炎が揺れるのを見つけた。

「お前が啼いてくれんだろう?」
瞳を細めて俺をじっと見つめる。

(あぁ、その瞳に射抜かれただけでのぼせてしまう)

「俺としては、留の啜り泣く声が聴きたいのに」
不貞腐れたように文句を言えば「気色悪い事言うな」と、堪らず吹き出した留三郎に額を引っ叩かれた。
「痛ッ!くそ〜」
反撃とばかりに身体に力を入れても、あまり効果は無かった。
少々組んず解れつ…とまでは行かず、じたばたとどうにか形勢逆転を狙う俺をあっさりと去なす留三郎が「くくっ」と静かに喉の奥で笑った。

「陽、お前可愛いな」

不意にちゅっ、と額に口付けられた。
ほんのり熱を帯びた唇と掠める吐息。
そして確かな想いのある、口付けだった。
囁かれた言葉と、初めて与えられた留三郎からの口付け。
それだけで俺は、ぶるり、と身を震わせた。

「手前から仕掛けたんだ、待ったは無ぇぞ」

俺の耳朶に寄せた唇からは、低く掠れた、情欲に濡れた言葉が囁かれた。
「留…さぶ、んっ…、」
名を呼ぼうにも、成し遂げる前に唇を塞がれる。
ちゅっ、くちゅ
という卑猥な水音の合間から、はぁ…はっ、という乱れた呼吸が零れる。
噛み付くように、求めるようにと角度を変えては吸われる唇。
息を継ごうと一瞬唇を離せば、逃がさないとでも言うように留三郎の舌が侵入してきた。
「んふっ、あ…ぅん、」
舐る様に舌を絡まされ、弄る様に上顎や歯列を舐めまわされた。
とんでもなく気持ちが良い。
好いた相手の口付け一つで、己の欲望が爆発しそうになる。
堪らず相手の背に回した腕に力が入った。

じゅぅっ、ちゅっ

と、わざと淫靡な音を響かせて留三郎が唇を離す。
俺は溢れそうになる、どちらのものとも区別のつかなくなったものを飲み下す。
こくり、と喉が鳴るのを見て、留三郎の口角が上がった。
「いやらしいなぁ、陽」
はぁはぁと息の整わない俺の前髪を、ついっと指先で梳く。
大人になりつつある無骨な、細かい怪我の痕が残る、後輩想いの、指。
その指が今は俺だけに、慈しみの情を孕んで触れている。

そう思ったら、堪らず涙が零れた。

「留、俺ね、本当に留三郎が好きだよ。だから…抱かれる方でも嬉しいよ。応えてもらえるなら、いい」
前髪に指を絡めて遊ぶ留三郎の手首に、俺は首を伸ばして口付ける。
めいっぱいの慈愛を込めて、祈る様にそっと。

「馬鹿野郎。応えるも何も、俺だってお前に惚れてんだ。…欲しいと思うのは同じだろうが」
ぶっきらぼうに、耳まで真っ赤に染め上げた留三郎が、潰れるんじゃないかと思うくらいの力を込めて抱きしめてくれた。
密着した肌からは劣情を孕んだ熱と、早鐘を打つ心音。
そして、ぐぐっと寄せられた下腹部には、確かな欲望に膨れ上がった存在が当たって、俺の劣情をも煽ぎに煽いだ。
相乗効果で、こちらも自然と自己主張を示す。

それだけで心が充溢されて、幸いだと感じ入った。



「…陽、」

好きだ、と囁かれる代わりに、ひどくひどく甘い微笑みと口付けが一つ、降ってきた。




今日だけは俺のもので居て

(―――愛しい者との契りが、こんなにも幸福だなんて)






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