03
息をする度に肺に満ちる薬草の臭いに噎せ返りそうになるも、原因はそれだけではなかった。俺は恥ずかしげもなく嗚咽を漏らし、その場に泣き崩れる。
「良かった・・・い、生きて・・・ッ、生きていてくれて、良かった」
ぼたぼたと涙を零し、留三郎の枕元に膝を着くと、その頬を包むように撫でた。
温かかった。
留三郎の体温が、宿っていた。
「んくっ、ひっ、」
喉が引き攣ってぴりぴりと痛んだ。
留三郎の温度に、己の手が冷え切っていた事を知った。
視界が歪んでよく見えない。
しかし、止まることの知らない涙は、留三郎の上に降り注ぎ続けた。
「っ、陽・・・か?――ッ!!」
ぼんやりと意識を取り戻した留三郎が、ゆるゆると瞼を上げる。
俺を捕らえて口を開くも、激痛に苛まれてびくっと身体が硬直した。
「う・・・動いちゃ駄目だ!け・・・怪我が、酷い・・・ッ」
まともに言葉が紡げずにいる俺の肩を、新野先生がぽんっと撫でる。
「食満君、貴方は昨夜学園長先生の命を狙う暗殺者と出会い、気を失っていたところを善法寺君たちに運び込まれたのですよ」
と、説明をした。
「そう・・・でしたか・・・すみません」
掠れた声の留三郎が目を伏せる。
「いいえ、無事で何よりでした。では、私は担任の先生に報告に行ってきますので、日向君、少しの間留守を頼まれてくれますか?」
「は…っ、はい」
ぐずぐずと鼻を鳴らして咽び泣く俺は、両手で目元を拭って頷く。
「では、頼みますよ」
新野先生が今度は二度、落ち着かせるように俺の肩をぽんぽんと撫でて保健室を出て行った。
静寂が辺りを包む。
聞こえるのは、俺の喉が引き攣ったような嗚咽と、対照的に穏やかに鳴く雀の囀り。
ほんの少し落ち着いてきた俺は、ふぅふぅ、と数度浅い呼吸を繰り返して息を整えると
「俺、さっき聞いて、驚いて・・・でも無事で良かった」
と、安堵を口にしようと開いた。が、途中で嗚咽に掻き消される始末に終わる。
みっともないと思うけど、留三郎の無事を思ったらどうにも抑えられなかった。
「すげぇ顔だな、陽」
くしゃりと微かに笑った留三郎を見て、また泣けた。
「心配掛けて、ごめんな」
ぽつりとそう零し、ゆるゆると手を持ち上げる。
その手が、留三郎を覗き込んでいた俺の目の下に這わせられた。
「泣くな」
そう唇を動かし、力の入らない指で俺の涙を拭うように撫でるその仕草に
愛おしさが、溢れ返った。
どうしようもないくらいに胸が震えて
俺は自然と
唇を、落としていた。
ぴくり、と留三郎の肩が震える。
けれど、制止される事はなく
静かに…触れるだけの口付けを交わした。
それはどこか
厳粛なもののような気がした。
愛おしすぎた痛み
(―――痛い、痛い。想いって、千切れそうなくらい、痛いんだな)
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