01
只只、途方に
ゴ―ン
ゴーン
と、ヘムヘムが撞いた鐘が鳴り響く。
どうやら昼休みが終わったようだ。
俺も一応六年は組へと向かう。
他の学年、他の組が教室で通常の授業を受けている中、いくら一人だけ課題と言えどふらふらしていては下に示しがつかない。俺だってそのくらいの節度はあるよ?
「でも、課題がちゃんと出来るかは別問題なんです〜」
独りごちる。
課題内容が難しいのは先の俺の行動を見ていれば一目瞭然だろうけど、それとは別に、孫兵の言葉が胸に閊えて課題所ではない。
――――ご自身を、赦して差し上げれば良いのに
ぽつりと、俺に届けようとはしていない声で孫兵は呟いた。
呆れるでも、同情するでも、提案するでもなく、ただ零れた言葉。
だから余計に純なモノに感じた。客観的に落とされた言葉の様に感じた。
俺は、その言葉に縋っても良いのだろうか。
「はぁ〜〜〜…」
深い深い溜息が落ちた。
これ以上考えようとすると、頭の中に墨をぶち撒かれたように考えるのを俺自身が拒否をする。
(駄目だ。今は俺の事なんかより、家の事を…親父の事を最優先に考えねぇと)
教室の組札が見えてきた処で、俺はガシガシと余分な思考を払い落す様に頭を掻いた。
「先ずは、課題片付けねぇとな〜」
手元の課題と対峙する事を決め、へらっと力無く笑う。
そこへ「日向くぅ〜ん」と、鼻にかかったような独特の声の事務員、小松田秀作さんに呼び止められた。
「あれ、小松田さん。どうしたんですか?」
「今さっき、日向君宛てにご実家から早馬が届いたんだよぉ。あれ?何処に仕舞ったっけ?あれれ?」
書庫に仕舞いに行く途中だったのか、少々の紙束と巻物を持ち替えては袖を、持ち替えては袷の中を、と手紙を探す。
「落としちゃったかな〜?」
あれれぇ?と尚も探し続ける小松田さんに、何時もならば「何やってんですか〜どこ隠したんです?」なんてからかうけれど、今の俺には出来なかった。
からかうどころか、正しく思考を動かす事すら困難に感じる。
考えなきゃいけない事を、考えまいとする無意識の意志が働き、頭の中が薄霧に覆われたようだ。
「あっ、あったあった。はい、これ」
そんな俺の様子には気付いていない小松田さんが、ホッと胸を撫で下ろして手紙を手渡してくる。
「日向君?」
なかなか受け取ろうとしない俺を、きょとんと屈託無く見上げてくる。
「…あっ、すみません。ありがとうございます」
我に返った俺は、手紙を受け取る。
受け取ったその手紙は、内容がさほど無いのかとても薄く軽かった。
なのに、俺にはとてつもなく分厚く鉛のような重さを受け取ったような錯覚を起こしかけた。
――――はらり
思わず手紙を取りこぼしそうになる。
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