03




「…嫌だな、僕も貴方のお節介が移ってしまったのかな」
すいっと視線を外した伊賀崎がぽつりと呟き立ち上がる。
ぱんぱんと袴を叩いて土を払うと、もう一度だけ日向を見遣る。
「日向先輩、貴方の長所はその図々しさ…じゃなかった、強引さでしょう?」
「言い直さなくてもいいよ!結局同じ様な意味じゃん!二度ショックだわ!」
「裏を返せば“素直さ”とも言えるのでしょうか。最近の貴方にはそれが無いように見受けられます。ご家業に根を詰めて逸らしているようだ」
ドキッと一つ大きく、拍動する。
「何、を?」
乾いた喉を湿らす様に、こくりと鳴らす。
「さぁ、それは先輩ご自身にしか御分かりにならないのでは?ただ、何となくそういう風に見えただけです」
そう言って首を傾けた伊賀崎が、ジュンコに頬擦りをした。
「…っ、」
抽象的な会話ではあるが的を射たような言葉に、日向は二の句が告げなくなる。

「ご自身を、赦して差し上げれば良いのに」
聞き取れるか否かの声で伊賀崎が零す。
「えっ?」
思わず日向が聞き返す。

「…人とは、大変なんですね」
伊賀崎が微かに浮かべた微笑は、この上なく美しく儚いものに見えた。
「貴方はまるで、ご自分を悔いている様だ。ここ最近は特に」
それでは失礼します。と、意味深な言葉を置いて、伊賀崎が去ってしまった。
取り残された日向は、茫然とその背を見送る。

齢十二の三つ下の後輩は、自分が思っていたよりもずっと大人で、ずっと人を見、人の事を考えられる賢い優しい子だったと、半ば度肝を抜かれた状態で確信に浸った。



絡めとる視線

(―――孫兵、末恐ろしい子!)





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