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絡めとる視線
「分っかんねぇ!」
鬱憤を吐き出すように唸った日向が、そのままごろんと木の根元に寝っ転がる。
初夏を思わせる気候に肌がしっとりとはするが、木陰は思いの外涼しく、心地好い風が頬を掠めていった。

今は昼休み。
中庭で課題をしていた日向は、解こうとしては唸り、考えようとすれば後輩たちの遊ぶ声に微笑むを繰り返し、一向に進む気配が無い。
「ん〜〜〜、皆も頑張ってるんだから俺も頑張れ!」
流石に自分でもこれでは駄目だと思ったのか、パンパンと散漫な思考を集中させようと両頬を叩く。

現在六年生は戦場実習が始まり、い組が遂行、続いてろ組も遂行。そして今朝、は組が出発した。
実習期間は三日程。
とはいえ、内容は過酷の様だった。
いや、過酷だからこその三日という短い期間なのかもしれない。
成績優秀であるい組や体力に長けているろ組でさえ疲労の色は顕著だった。
それでも見事遂行し、怪我の大小はあれど無事帰還してくる辺り、最後まで残ってこれた最上級生と言うべきか。
留守番組である日向は、体感で知る事は無いが、見ていればその大変さと友人らの有能さは十分理解出来た。
その同級であり同じ組であるは組が早朝に出発し、彼らが戦場で頑張っているのだから自分も頑張って課題を解かねばと、日向は頭を振る。

「それでもやっぱり難しいものは難しい!」
行儀見習いを過ぎた四年生からは、プロの忍を目指す者と同じ勉学内容を受ける為、日向にとっては並々ならぬ勤勉さが必要となった。
元々あまり賢いとは言えない所に家業の多忙も相俟って成績は酷いものだ。
しかし、友人らが勉強を見てくれたり、何かと手を貸してくれるので何とか此処まで進級して来られた。
ならば最後、卒業まで全うしようと日向なりに両立を頑張っている。

「誰か〜教えて…」
中存家と潮江は委員会、七松は同類で除外。残る立花は、辛辣な言葉と容赦の無さで最終手段と決めていた。
頼りの食満と善法寺が実習となれば、自力で頑張るだけ頑張るしかない。
何度目かの自問自答を繰り返し、ごろんごろんと寝返りをうっていると
「…何をしているのですか」
突如、日向に声を掛ける者がいた。
「お〜珍しい!孫兵から声を掛けてくれるなんて」
声のした方に顔を上げると、そこには呆れた様な表情をした伊賀崎が佇んでいた。
「嬉しいな、孫が俺に興味持ってくれた!それだけで俺頑張れちゃう」
にまぁっと締まりの無い笑顔を浮かべ、ちょいちょいと伊賀崎を手招く。
「何を大げさな」
ふっ、と小さく嘆息した伊賀崎がほんの少し歩み寄った。
「まぁ、何時も貴方が構い倒そうとするので、本能的に逃げたくなるのは事実ですが」
「まぁつれない人!でもそこが素敵!」
日向がおちゃらけて、くっくっと笑う。
伊賀崎も、しれっと厳しい事を言いながらも日向の横に腰を下ろす。
双方の間には微妙な距離はあれど、伊賀崎にしては大いに受け入れていると言って良い範囲だった。
その距離間に「でも、今は逃げる気にならないでくれているんだ?」と、喜びを隠す事無く日向が笑顔を向けた。
「…いちいち聞かないで頂けますか?そういう所が…はぁ、もういいです」
途中で諦めて言葉を切ってしまった伊賀崎を、日向がつつく。
「何だよ〜、言えよ〜。そういう所が無神経?強引?好き?」
「最後の一文抜かして、分かってらっしゃるじゃないですか」
「折角なら最後の一文も肯定して!」
「お断りします」
「酷い!」
さめざめと泣き真似をする日向を横目に、もう一度伊賀崎が溜息を吐く。


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