02
「伊作も、伊作の好きな子やその周りの奴には、こんな気持ちになったりすんの?」
そう尋ねてみると「そりゃぁ、なるさ」と照れたような笑みが返された。
「じゃぁ、俺等同士な」
くつくつと喉を鳴らして笑う俺に、伊作は再び笑む。
今度はほんの少しの哀しさを交えて。
「そうだね。でも僕は陽程お人好しじゃないから、あの子の同級に感じる嫉妬を拭い去る事なんて出来ないんだけどね」
最上級生なのに駄目だなぁ、と伊作は溜息を吐いた。
「そんなの仕方ないっしょ。学年が違えば見える事もぐんと少なくなるし。俺は伊作の良さをたっぷり知ってるからあれだけど、もし伊作と同じ立場だったら俺、敵意ばんばんになっちゃうね!絶対嫉妬だだ漏れ!」
うわぁ〜そんなの堪え難い!と、のた打ち回りだした俺を、伊作が嬉しそうに見遣った。
「ありがとう、陽」
そう言う伊作に、別にお礼を言われるような事してないけど。と言おうとしたが止めた。
その代わりに「伊作は本当にその子が好きなんだな」って言ったら
「うん、一等大切な子だよ」
っと、それはそれは柔らかい笑みを寄こしてくれた。
うおっ、その笑顔反則だろ。
こんなに穏やかに笑う伊作に嫉妬を自覚させる程の子ってどんな子なんだろ。
ここまで言い切らせる程の子…と、俄然興味が沸いた。
「で、でっ、誰だよ、伊作の好きな子って!」
噂好きのくノたまのように、にじり寄る。
「えぇ〜、別に良いじゃない僕の好きな子の話は。留さんについての愚痴はもう良いの?」
と、伊作が切り返す。
「別に愚痴じゃないよ!ただ何か、もやっとしただけ!そんで、やっぱり好きだなって再認識した」
こっぱずかしい事を臆面も無く言って退ける。
「あはははっ、陽らしいね。話しが強引と言うか突拍子もないと言うか」
堪え切れず伊作が声を出して俯き笑う。
「何だよ〜俺ん中ではちゃんと繋がってるんだぞ!?それより誰だよ、好きな子!何年生?可愛い?それとも大人っぽい綺麗な子?」
俺はくノたまの後輩たちを思い出してにやにやした。
「…くノたまじゃないんだ」
ぽそっと、聞き取れるか否かの声量で伊作が呟く。
「えっ?」
思わず、聞き返した。
「くノたまじゃないんだよ、僕の好きな子」
ゆっくりと上げられる顔。
そして発せられる言葉一つひとつがまるで、絡みつく何かのように伊作の喉にけつまずきながら零される。
じゃぁ、町の娘?と聞こうと思ったが、上げられた顔を見たら続けられなくなった。
何処か覚悟を決めた様な顔。それでいて何とも言えない悲壮が見え隠れしていた。
「委員会の一つ下の後輩。…誰かは、解るよね?」
伊作が目を伏せて問う。
「…うん。そうか…そうなんだ。俺たち、本当に“同士”なんだな」
くしゃっと、情けない様な顔で笑うしかなかった。
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