02




こういう時、俺は堪らなくなる。
面倒見の良い留。
口の悪さとは違って、与えてくれるその優しさは、見返りを期待しない懇親のもの。
ふっ、と肩の力を抜いた時に見せてくれる、何処か無防備な表情は少し幼く、愛くるしささえ感じる。
そんな事を本人に言ったら、顔を真っ赤にさせて「気色悪い事言ってんじゃねぇぇぇ!!」ってどつかれそうだけど。
でも俺は、そんな羞恥で怒っちゃうような初心な所も好きだ。
…あははっ、恋慕って盲目なのな。
自分で自分の思考にちょっと呆れた。

「何だよ、何笑ってんだよ」
一人でに苦笑を浮かべてしまった俺に、留が不思議そうに問う。
「ううん、何だかんだ言って留はやっぱり優しいなって思っただけ」
特に痛くは無かったが、何となく小突かれた額を撫でて誤魔化す。
「なんだそりゃ、莫迦言ってんな」
小さく笑みを零した留は、額を擦る俺の手を下から攫う様に退けて、そのまま前髪を掻き上げる。
「え…な、何?」
唐突の事でうろたえていると「前髪での陰かと思ったら、お前酷でぇ隈だな。ギンギン野郎と良い勝負だぞ」と、みるみると留の眉間に皺が寄った。
「疲れてんのか?」
ぎゅっと額に皺を寄せて、不機嫌そうな顔になる。
怒っているそれでは無いと解っているので、何だかくすぐったい。
「大丈夫だよ。それより修繕の仕方教えてよ。留たちももうすぐ、数日間の戦場実習始まるだろ?留守を預かる中で、出来る限りの対処は自分たちでしておきたいからさ」

そうだ、戦場実習が始まる事を失念していた。
だから休日なのに、文次郎が無理やり委員会を行っていたのか。と、その理由に思い当たる。い組は明日辺りからだろうか。

六年ともなれば実習はより実践となり、戦場へ赴く期間も長く危険も増す。
そして学園に上級生が手薄になるという状況は、学園長の命を狙った輩の格好の餌食になる為、ばらばらに行われる。
今回はい組を皮切りに、ろ組、そしては組という順で入れ違いに出発する。
ちなみに俺は今回の実習は欠席だ。
どちらかと言えば行儀見習いに近いから、命の危険に関わる領域の実習は受けない。
その代わり、何かしら課題を与えられて論文書かなきゃいけないんだけど。

「ちゃんと教えてやっから今は少し休め」
そう言うと、前髪を掻き上げた時のまま頭上に置いていた掌を後頭部に回す。
俺の頭を引き寄せる様にぐんっと力を入れたかと思うと、予想よりも遥かに下の位置に押しやられた。
予想で、留の胸中に引き入れられるのかなぁなんてどぎまぎしたのも束の間。
胸部を通過してもっとしたの、留の胡坐をかいた膝上に頭が落ち着いた。
…いや、落ち着いてない。
突然の事で、崩れ落ちたように突っ伏した間抜けな格好になってるよ、俺。
「あはははっ!留だって人の事言えないじゃんか〜強引だなぁ」
くすくすと笑って、収まりの良いように寝転び直す。
「うっせ、手前はいつもだろうが。俺は今だけだ」
と、よく分からない言い訳をした。
「嬉しいけど、俺、どきどきしちゃって眠れないよ」

そう言ってから、すうっと体温が引いた。
うっかりまたやってしまった。
馬鹿か俺は!
今までならこんくらいの事「阿呆抜かすな」って怒られる程度で済んでたけど、昨日の今日だぞ!?本気度違うって知られてんじゃん!
俺の馬鹿阿呆間抜け!!
留三郎の常と変わらない態度に気が緩んだ。
まるで昨日のぎくしゃくなんか無かったかの様だったので、ついいつもの軽口を叩いてしまった。

「あっ…う、お、ッ えっと、」
血の気が引いたおかげで頭が真っ白になり、何も考えられずに喘ぐように口をぱくぱくとさせた。
「くだらねぇ事言ってねぇで休め」
ぺちっと、小さな嘆息に乗せて留が俺の頭を叩く。



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