01
髪に触れて、離れて触れて、ふれて、あいして あの後三木たちに委員会の終了を伝えに行った俺は、そのまま休憩しようと自室へと足を向ける。
無事左門も届けた事だし、まだ夕方前の時刻という事もあって家業に戻ろうかとも思ったのだが、どうにも気が進まなかった。
どうやら俺は、自分が思っているよりも疲れているんだと自覚する。
「一眠りしてから考えようかな」
疲れたと自覚した途端、瞼がどんよりと重くなる。
ここしばらくの疲れと、昨日の留三郎との一件での心労が重なり、想像以上に体力を消耗していたようだった。
「はぁ〜」
止まっていた溜息が再び漏れる。
何時までも避けていられるわけではないし、夕餉にはきっと顔を合わせる。
というか、今自室に戻れば必然的に留三郎達の部屋の前を通る事になる。
夕餉処か、早々に会ってしまうんじゃないかと俺は頭を抱えた。
う〜んう〜ん、どうしたものかと逡巡していると、長屋へ続く廊下の向こうから
「陽」
と、声を掛けられた。
パッとその声に反射して顔を上げると、聞き違える筈のない、今まさに俺を占めていた留三郎の姿が在った。
「う…おぅほ、おっ、おうッ!」
動揺して、きっかいな返事をする。
「何変な声出してんだよ」
はははっと、腰に手を宛てたまま立つ留三郎が、顔を俯けて笑う。
「丁度お前に頼まれていた修繕が終わった所なんだ。それに、応急処置の仕方も教えて欲しいって言ってただろ。今、暇か?」
寄ってけよ、と自室を親指で示す。
「…う、うん」
心の準備が整わない俺は、鼓動が逸るのだけは何とかしようと、着物の袷を握り、こっそりと深呼吸をした。
「ほらよ、これが頼まれてたやつな。しっかし、生物委員会もほとほと不運だよな。今度のはきつめに編んであるから簡単には脱走出来ないと思うぜ。鍵を掛け忘れたりしなけりゃな」
ふんっ、と片方の唇だけ上げて揶揄するように笑う。
「ごめんって!気を付けます!」
そう言って両の掌を眼前で合わせて拝む様な形をする。
連日の脱走劇が学園に迷惑を被っている事は重々承知だ。
生物委員会委員長である俺も頭の痛い問題だと常々唸っていた。
委員会の子たちに勿論悪気はない。だけど、どうしてか逃げる隙を与えてしまうようで、某不運委員会を引き合いに出されるのも無理はなかった。
「脱走の事も勿論だけど、修繕も手伝ってもらってばっかなのも申し訳なく思っているよ。だから、もう少し自分たちでどうにか出来る様に、ひとつ頼まれてよ」
俺は拝んだ形のまま、ぱちりと片目を瞑っておどける。
「請け負う気があるから呼んだんじゃねぇか、莫迦」
それを見た留三郎がふっと力を抜いて、コツンと俺の額を小突いた。
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