02
「ねっ、文次郎、俺が手伝うからさ、こいつ等今日は終いにしてやってよ。友と遊んだり、町に出ようと楽しみにしてた子だっているかもしれないじゃん。せっかくの天気だし、太陽浴びさせてやってよ〜文ちゃぁ〜ん」
いつになく真剣にお話なさっているかと思っていたら、最後は甘える女子のような仕草で、文机越しに潮江先輩の首へとしなだれて腕を回す。
「バカタレィ!誰が文ちゃんだ!ひっつくな!下に示しがつかんだろうがッ」
ぐいっと引き剥がしにかかる潮江先輩に「承諾してくれたら離すよ〜」と、日向先輩が答える。
「本当にてめぇは面倒臭せぇな!…その執念に免じてやるが、俺は終わらせるまでは動かんぞ」
潮江先輩なりの最大の譲歩だと納得して日向先輩が腕を解く。
「ありがとう、文次郎。その分俺も算盤弾くよ」
にこり、と場に合わない優しい笑みを浮かべる。
「日向先輩、私達は大丈夫ですから」
話しの展開にやっと反応出来た私に続いて
「そうですよ!僕達はまだ出来ます!」
と、左門が同意する。
そして「僕達だってまだ手伝えます!」「俺も!」と、左吉と団蔵も負けじと同意を唱えた。
「良い子だな、お前等。まぁ、まずは飯食って来いよ。話しはそれから」
よいしょ、と腰を上げた日向先輩が、開けっ放しにしていた障子戸に凭れかかる。
緩く腕を組んで私達にも腰を上げる様促すように、食堂の方を顎でしゃくった。
「三木、皆を連れて行っておいで。さっき俺からもお願いしてきたから、おばちゃんに握り飯作ってもらえな。あと、うちで取れたとうもろこし茹でてもらってるから食え」
にこっと、それこそ太陽の様に微笑む先輩。
穏やかに深い愛情を滲ませ、私達を慈しんでくれる姿に、左の胸の奥がぎゅっとなった。
「あ…ありがとうございます」
ほんの少し言葉が詰まる。
「田村、さっさと行って来い。こいつとじゃ纏まるもんも纏まらんからな」
私達を一瞥した潮江先輩が、犬猫を追い払う様に手首を振る。
「おい文ちゃん、農業の息子、嘗めるなよ。算盤なら慣れたもんなんだぜ?」
そう言って潮江先輩をひと睨みした日向先輩は、ぐいっと着物の裾をたくし上げる。
…先輩、その文句は「商業の息子」なら分かりますが…先輩は農業の家庭ですよね。
唖然とする私達に「三木、ぼぅっとしてないで片付けろよ。そんで、ゆっくり食って来いな。その間に終わらせてやるぜ」と、私たちに笑いかけた。
ああ、どうしてあなたは
(―――頼りなさそうに振る舞うのに、こんなにも頼りにしたくなるのでしょう)
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