02




「心配くらい、させなさい。」
土井は弱々しい笑みを浮かべて近江の頭をぽんぽん、と撫でる。
少し目を伏せた近江は、それを享受した。
しばしの間、二人は無言でその場に溶け込む。
「…土井先生。」
ゆっくりと近江が土井を見上げる。
「…あぁ、悪かったね。今用意するよ。」
土井はそう言って火薬を計り袋に詰める。

記帳に私の名前で署名し鴻を振り返ると、手持無沙汰のように、いや、どこか迷子になったような表情で私の仕草を見詰めていた。
「鴻?」
「はい?…あっ、火薬ありがとうございます。」
一瞬前の表情なんて幻だったかのように、いつもと変わらない様子の鴻が、私の手から火薬を受け取る。
「わざわざすみませんでした。では、失礼致します。」
そう一礼して踵を返す鴻の腕を思わず掴んだ。

驚いて振り向く鴻の瞳とぶつかる。
「帰りを、待っているからね。」
私はそれだけを言って微笑むと「…はい。」と鴻も小さく微笑んだ。



この腕は優しく掴まれて

(―――皆、お前の帰りを待っているからね。)





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