スタイリッシュであれ


例えば、同じ顔、同じ姿の人間が二人いたら、だ。一体何が二人を見分けるものになるのだろう。それをいとも簡単にこなす彼女に、スパーダは感嘆した。

「ほら、バージル。ゴミはちゃんと捨てて。」
「ダンテ、おもちゃは壊さないのよ」
「ダンテったら、もう、バージル、手伝ってあげて」


細々しく動く息子達を遠くから見つめて、そして思う。何を基準として二人を見分ければいいのだ、と。

「…エヴァ」
「なぁにあなた」

キャッキャッとはしゃぐ子供たちを見ながら、すぐ近くの彼女の名前を呼ぶ。あの子供たちに流れる魔力の大きさを見ても、それはほぼ同じくらいで、何を基準としてバージルとダンテになりえるのだろう、と。

「…あら、あなた、自分の息子も見分けられないの?」
「何故見分けられる?」
「だって、自分の子ですもの」
「やはり人間はすごいな」
「あなただって、すぐに見分けられるようになるわ」
「わたしが?」

思わず、彼女の方を振り返る。当然、と言わんばかりに胸を張る姿に、少し戸惑い、そしてチラリと息子を見遣る。いいや、だめだよエヴァ。全く見分けがつかない。

「ダメよ、スパーダ。諦めちゃ」
「エヴァ、私は伊達に3年、あの二人と過ごしていたわけじゃない」
「自慢しないでちょうだい」

呆れられたけれど、しょうがない事実である。3年というのは魔界でいえば瞬き程の時間でしかないだろう。けれどこちらでいえば、ただの細胞であったものが自分の意思というのを持ち、走り回るという事象を起こすのに十分な時間である。しかしその十分な時間を、自分は上手く生かせてはいない。そんな自信がある。再び、エヴァに苦笑されてしまった。


「おかあさん!ばーじるがおこった!」
「ああ、もう仲良くなさい」
「だってだんて、話きかないんだもん」
「ばーじるがなぐるからだろ!」
「けってくるのはお前だっ!」
「だから、ああ、もう…あなたからも何か言ってあげて」
「私が…?」


いきなり駆け込んできた双子にいきなり飛んできた話。エヴァは何故か嬉しそうに双子をあやしながら自分をみやっている。抱き抱えられた一人はともかく、もう一人の息子はしっかり、自分に何かを期待して見つめている。子供特有の大きな瞳が自分を射るのはとても居心地が悪かった。


「…そうだな」


息子の頭をぐりぐりと撫でてやる。目を細めるそれは悪魔にはない表情で、酷く愛らしく見えた。

「ケンカは、良くない」
「なんで?」
「スタイリッシュじゃないからだ」
「すたいりっしゅ?」

今度は、エヴァの腕の中の子が問う。もう一人がそれに噛み付くように答えた。

「かっこよくないってこと、ダンテ、そんな事も知らないのかよ」
「かっこよくない?ばーじるのこと?」
「しにたいのかお前は!」
「ダンテ!バージル!」



再びケンカを始めようとする双子に思わず苦笑してしまう。頭を撫でている方…バージルに視線を合わせるようにしゃがみ込み、口を開く。


「バージル」
「おれあやまらないよ」
「ダンテは?」
「あやまんない!」
「よし、ならこれを持て」


「「…新聞紙?」」

エヴァから下ろされたもう一人、つまりダンテ。二人で首を傾げながら渡された新聞紙を穴が空きそうは程見つめる
立ち上がって、人差し指を立てながら二人に提案をしてみた。きっとまたエヴァに何か言われるかもしれない、と思いつつも、自分はやめようとは思わなかった。


「先に3回、叩いた方の勝ちだ」





「あなたらしいわ」



エヴァの言葉を、双子のチャンバラから目を離さないようにしつつ耳を傾ける。現在の戦況は、バージルが2回、ダンテが1回、だ。やはり兄の方が若干強いのだろうか、どうなんだろうか。エヴァが息を吐いて、冷蔵庫に足を向けたのを感じた。

「どう?どっちが勝ちそう?」
「バージルだな、けれどまだまだ」
「なら今度教えてあげたらいいわ」
「はは、そうだな」

自分の膝程しかない子供に戦い方を教えるというのはどうなのだろうと想像して、すっかり思考が人間であると笑えた。悪魔の子は、生まれたその瞬間に呼吸と同時に戦闘を知るのだから。それが生きる意味であると、気づくのだから。

「しかしバージルはいいな、ダンテもなかなか悪くない。二人とも、将来が楽しみだ」
「ふふ、」
「?どうした、エヴァ」
「すっかり見分け、ついているじゃない、あなた」
「…そうだな」


二人の息子の初めてのたたかいはバージルの勝利に終わっていた。けれど二人とも何故か酷く不機嫌そうで、食事中に理由を問うてみる。二人は口を合わせてこう言った

「「スタイリッシュにたたかいたい」」


ああ、愛しい息子たちだ、と。
エヴァが嬉しそうに自分を見ていて、自分も笑っているのだと始めて気が付いた。(20110529)






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