体に流れる血の温度



「昔っから貴様はそうだ」

喉仏に閻魔刀の切っ先を宛てがって、バージルは吐き捨てた。突き飛ばされて、鳩尾を刺されて倒れた瞬間これだ、オニイチャンは容赦ねえな、とからかう声に、バージルはまだ塞がっていない鳩尾をつま先でえぐった。流石に痛みに呻くと、バージルはまた眉間のシワを深くさせる。大方、自分と同じ顔が痛みに呻く姿に腹を立ててるのだろうと苦笑した。なんて自分勝手な。

「貴様は何故力を求めない」
「生憎、誰かさんと違ってそこまで力に飢えちゃいないんでね」
「何も護れなかったくせに」

切っ先が、柔らかい喉を薄く切った。ピリッとした痛みが走って、けれど彼から目を逸らす事はしなかった

「護られて、護られて悔しいと。無力さを呪ったりはしないのか」
「アンタはそうだったのか」
「何故貴様は違う」
「確かに力は必要だ」

言って、閻魔刀の刃を掴む。肉を裂く痛みが気にならないというのは流石に嘘だ。けれどそれ以上に、刀を掴む痛みなんて比べものにならないくらいのものを、きっとお互いに持っているから。

刃を横にして、掴んだまま立ち上がる。変わらない身長、変わらない顔、なのに、


「力が必要だ――…アンタを」

一層力を込めた手の平に、刃が深く深くに食い込み細胞を断っていく。血が飛ぶのを、バージルは不快そうに見ていた。

「アンタを止めるための力…今は…それだけでいい」

まるで苦虫を噛んだような表情。相対的に、俺は笑みを深くして、挑戦的に睨みつける。バージルは重い唇を開いて、言葉を吐き捨てるように言う。

「…笑わせるな」
「へぇ、笑ってみろよ。アンタの笑顔っての、もう覚えて……ッ」


言い終わる前に、バージルは再び刀を引いて、鳩尾に刀をぶっ刺した。そして再び倒れて、離れて行くバージルの足音を聞く。彼はこれから向かう場所で、己の信念を貫き 野望を現実にと実行に移すのだろう。
鉛色の空が落とす涙を見ながら、鳩尾の穴と手の平に溢れる血潮を熱いと感じ、小さい頃のバージルの姿を思い浮かべて、瞼を伏せた。その顔は真っ黒に塗り潰されて、何も見えなかった。雨は鉄の味がした。



(110511)


思っているのは同じもの






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