気まぐれ不幸ボーイ


モリソンとダンテ





「ダンテ、仕事だ」


床を踏む音に、ダンテはようやく雑誌を顔から持ち上げた。

「随分早起きだな、モリソン」
「なぁに、ほかほかの情報を届けたかっただけさ」
「ピザの宅配の方が向いてるんじゃねえか?」
「こんな早くからピザ頼むやつなんてダンテ。お前だけだろうよ」


言いながら情報屋は書類をデスクに広げた。書類と、長い足の乗るデスクはずっしりとそこに存在感をもっていて、きっと足が馴染むとか言われてるんだろうと想像してしまった。ダンテは並べられた書類の数にモリソンを見遣る。「随分たくさんあるんだな」


「ああ、ただ、全て悪魔絡みとは言えない。けど無関係とも言えない」
「…」
「どうだ?」


ダンテはちらりと視線をやった後、さっと紙に視線を走らせる。しかしそれきり雑誌を再び手にとり、鼻をならした。

「パスだ」

「ダンテ」
「その日は気が乗らない。」
「明日だぞ?」
「明日は気が乗らないんだ。どうしてもってなら、ずらしてくれ」
「ダンテ」
「ならこの話はチャラだ」


雑誌を顔にのせ、ダンテはもうこっちを見なかった。困った奴だ、と帽子を被る。こうなった彼はもう動かない事を、モリソンは知っている。ただし悪魔絡みかもしれないというのに、この腰の重さは何故だろうか。
しかし彼はそれ以上は語らず、緩やかに肩を揺らす。

「…しかたねぇな、ったく気まぐれな奴だ」
「明日はここに来るなよ、モリソン。」
「美女とアレか?」

鼻で笑ったのを見届けて、モリソンはその事務所を去った。

ダンテがストロベリーサンデーを食べに外に出、モリソンの言った事件に出くわすのはほんの数十分後のことである。


(110820)





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