王に、見合いの写真が送られてきた。

それもたんまり、だ。

どうしてもガッシュが受け取らないんだからしょうがないだろう、と断っても、なら机に置いておくだけでいい、なんなら兄上さまにも、とかなんとか言われたから、どうしようも出来なくってとうとう腕いっぱいに抱える事になってしまった。

(…すっげえ)

試しに見てみて、思わず笑えてきた。口角がひくひくとするなか、目で写真一枚一枚みて、そして渇いた笑いも出た。写真は、魔界中の魔物たちのものだった。中には見知った顔も沢山いて、多分本人の同意もなく送ってきたんだろうと伺える。違うならば、ティオはともかくチェリッシュの写真が送られる訳がない。
困ったもんだ。王佐は深くため息をついた。


「ったく、どうしたもんかな」

とりあえず渡してみようか。しかし、あれが受け入れるとは思えない。また密かにしまっておこうか?

…いや、歴代の王はこの頃、既に妃を迎えていた。
あれだってそろそろ。ここは心を鬼にして決めろと言い渡す方が補佐としてパートナーとして正しいのだろうか。そうだな、もう人間でいう17歳だし、あいつも


「何を見ておる?」
「うわあああ??!!!!」


途端、背後というか、耳元から吐息と言語がして、心臓が縮み上がって全身が総毛立った。

「いっ…いつの間に居たんだよガッシュ!」
「清麿が何か仕事をしていたら悪いと思っておったのだ。…写真?ティオもおる…」
「…お前の見合い写真だよ」
「なに?」

何を言われてるか分かってない表情で振り返った。

「だから、お前のお見合い写真。結婚しろって事だよ」

「…けっこん」
「そう、結婚。」


言葉を虚に繰り返すガッシュは山積みの写真達をかえりみた。どっさり、ごっちゃり、この量は魔界中の女魔物の量に値するのではなかろうか?

「…嫌なのだ…!」
「…ガッシュ。」
「清麿はそれでいいのか?私が結婚をしても!」
「え?ああ、その方が」
「清麿!!」
「……俺にどうしろって言うんだよ…」

涙目で訴えてくるパートナーについ困ってしまう。痒くもない頭をかきながら、身長の変わらない王の姿を見た。

「いいか、ガッシュ…お前は前だって、前王の子だったんだ。お前の子供だってなれば、皆が期待するのは当然だろう?」
「……子供って…」
「お前も知る頃だろう。子供をつくらなければ…」「子とは、どうつくるのだ」
「は?」

いきなり、しかも今さらなんだ、と呆れ半分にガッシュの顔を見たら、それは戸惑っている表情なんてしていない。
ガッシュは、強気に俺を睨んでいた。

「…ガ…シュ」
「のう、清麿。どうやったらつくれるのかの」
「…どうし…」

その凄む剣幕の黒い事。
ぞっとするほどガッシュは強気でいて、にじり寄ってくる王にただ、目を逸らさないまま後ずさる事しか出来ない。そして、後ろを確認した手が、背後の机の本達を落とした。

その瞬間、肩に軽い衝撃と、背中に強い衝撃を感じた。


「いっ…ッ!痛…!が、何だよ、ガッシュ!どうしたんだっ」
「何を怯えておるのだ、いつも知らない事は教えてくれるではないか、清麿は。」
「なん…っ」
「子、が、必要なのだろう?」

広い掌が顎を掴んで、顔があっという間に近付いて、触れた。
咄嗟に固く閉じた唇を、何度も往復する唇と舌がくすぐったくて腕をつっぱねようとした瞬間、唇が離れた。

「…ッは、なにするんだよ!」
「…」
「ガッシュ!」
「気分が悪いの」
「は…」

机に押し付けられてる為、無理な体制で常に角に背中を押し付けてる状態。今度は肩を捕まれて、そのまま机に抑えられる。その際、とうとう足が浮いた。机に置かれた紙と本がバサバサと音を立てて落ちていく、その被害が不快で、こんな状況であっても出来るだけ小さな抵抗をしようと無意識に制限した。


「ガッシュ!やめろよ、離せ、」
「清麿は」

「なにもわかっておらぬ」


哀しい光が、王を射していた。そして、

「…ガッシュ…?」


首筋を指先でなぞって、そして服を、引きちぎった。
驚きに声もでなくて、咄嗟に睨んだガッシュの顔は
歪んだ笑みを浮かべていた。



□□□□



王補佐の部屋は誰もやってこなかった。
締め切られた厚い扉一枚向こうには、淫猥な濡れた音と熱い呼吸を繰り返す声、そして嬌声。

「きよまろ」

熱い声は確かに鼓膜に響いている。何故こいつはこんな事を知っているのか分からない、分からなくって、怖かった。
乳首を爪を引っ掛けられて、弾かれた時だって、下肢の付け根を握られた時だって、その奥の蕾に指が這った時だって。

何もわからなくって、泣きじゃくった。

熱い声が繰り返し響く中、我を取り戻したのは、ガッシュに強く抱きしめられてる時だった。

「…すまぬ、すまぬきよまろ」
「…が…っしゅ」

絞り出した声が酷く掠れていて自分で驚いた。なんでこんなに声が枯れてんだ、と思って、少し考える。ああ、そうだ。おれ、

「…すまぬ…きよまろ…」

それでも、俺を強く強く抱く腕と、震える肩と背中がどうしても可哀相で、ゆっくり両腕で抱き返した。肩に顔を埋めるガッシュは涙声で、肩が冷たい。きっととめどなく涙を溢れさせてるのだろう。俺にした事を悲しんで、悔やんで、後悔をしている。

「…いい、から、ガッシュ。大丈夫だから、なくな、ガッシュ」


繰り返した言葉はどうしても蚊の飛ぶみたいな音にしかなってない気がしてもどかしかった。つらい。痛い。けれど、俺は、大丈夫だから。

それでも泣き止まないガッシュがどうしたら泣き止むか分からなくって、白い霧がかかる頭で一生懸命考えた。そして、こんな『事故』は、笑い飛ばす事が1番いいと思い付く。俺は全身の痛みに無視して、明るい笑みを貼付けた。

「ほんっとうバカだな、ガッシュ」


ぐいっ、と肩を掴み押し、ガッシュの涙でぐちゃぐちゃな顔をまっすぐに見た。その顔のマヌケな事、貼付けた笑顔は直ぐに自然な笑顔になったのを感じた。

「本当…ったく、全身が痛いんだからな」
「す、すまぬ…!」
「つーか、どこから得たんだその知識。腹立つ」
「す…すまぬ…」
「…いいけど」

叱られた大型犬みたいなガッシュを見ていると、なんとか心情の穏やかさを取り戻せた気がした。そうだ、こいつは唯一無二のパートナー、そしてまだまだバカな子供だ。こんなガキに結婚なんてさせようとした俺が間違っていたのかもしれない。自傷気味な笑みを一つして、そしてまた笑い飛ばした。下肢に流れる白濁を見ると吐き気がしたが、寸で堪え、そして笑う。


「俺は女じゃないんだから産めねえよ」


その言葉が、後の俺を苦しめる言葉になるなんて誰が予想しえただろう。
ガッシュはきょとん、とした顔のまま俺を見つめていて、泣き止んだと胸を撫で下ろす俺。机から降りると腰に電気が流れる様な痛みが走る。直ぐにへたりこんでしまって、続くように注がれた穴から白濁がとろりと流れ出した。

「大丈夫かの清麿?!」
「ははっ、大丈夫だよ。ただ立てねえし…風呂場まで背負ってけ」
「わ、わかったのだっ」

わたわたとさし伸ばされる腕の暖かさに目を細め、心地よさに全身を弛緩させた。頭が痛い、腰が痛い、そう言いながらガッシュの背中にしがみついた。

その裏で、ガッシュが真剣な表情で何を考えてたかなんて、俺は知るよしもなかった。


110317





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