・メリースザルルクリスマスな話。
・甘々。
温もりを求めて「ふんふんふ〜ん、ふんふんふ〜ん」
陽気なステップを踏みながら、クラブハウスの廊下を進む。
屋内に入ったといえども、まだ部屋の外だからか少し空気が冷たい。
吐く息が、うっすらと白くなった。
「ふんふんふ〜んふふ〜ん、…っと!」
ジングルベルの鼻歌を歌いながら、通い慣れたその道を急ぐ。
そう、今日はクリスマス・イヴ。
恋人たちが甘いひと時を過ごす、一大イベントだ。
そしてこれから、待ちに待ったルルーシュとのクリスマスデート。
浮かれずには、いられない!
ようやく、目当ての部屋のドアの前まで辿り着く。
ちょっと時間が早いけど、ルルーシュはもう準備できてるかな。
もしまだだとしても、そばで待っていよう。
とにかく、早くルルーシュに会いたくて堪らない。
逸る気持ちを抑えながら、軽く数回ノックをしてからドアを開ける。
以前、ルルーシュに必ずノックをしてから部屋に入るようにと言われたのを思い出したからだ。
「ルっルーシュ〜!もう支度はできた?」
声を弾ませて部屋の中に入っていくと、やがて大好きな黒髪を見つける。
いつもは僕の姿を見るとにっこり微笑んでくれる、ルルーシュ。
だけど、今日だけはそうじゃなかった。
「す、スザク!?お前、部屋に入る時はノックをしろと言っただろう!」
なぜか、怒られた。
運が良ければ挨拶のキスでもしてもらえるかなと期待していた僕は、軽く凹む。
「ノックなら、さっきしたけど…」
「俺は入っていいとは言っていない。それに、俺の記憶が正しければ待ち合わせは1時間後のはずじゃなかったか?」
「うん!待ちきれなくて、迎えに来ちゃった」
「来ちゃったって、お前…。こっちにも、準備ってものが……!」
さっきからルルーシュ、どうしたんだろう。
怒っている、っていうより…。
焦っている…のかな?
なんかそわそわと落ち着かない様子だけど、気のせいだろうか?
「あれっ?」
今…。
「…ルルーシュ、今なにか後ろに隠したよね?」
「……!!」
表情が一瞬強張ったのを、僕は見逃さなかった。
ルルーシュは普段嘘をつくのがうまいけど、こういう予想外の出来事には弱い。
「ねぇ、なにを持ってるの?」
「な、何でもない…!」
「なんでもなくないだろ。今、明らかに慌てて隠した」
「だから、違うって」
「…僕に隠し事?」
「そういうわけじゃ……」
む。絶対、怪しい。
僕に見られちゃまずいものでも、あるんだろうか。
「それ!!」
「あっ!おい、勝手に取るな!!」
僕は、そのルルーシュの秘密を一瞬のうちに奪い取った。
ルルーシュが僕に反射神経で勝てるはずがないので、それを手にすることは難しいことではなかった。
「スザク、返せって!」
ルルーシュが慌てて取り返そうと、手を伸ばす。
僕はひょいとかわして、そのままくるりと背を向けた。
そして。
手に持ったそのふわりとした感触に、それがなんなのか、ようやく気付く。
え?
これって、
「手編みの、マフラー?」
「……!!」
太めの毛糸で編み込まれたマフラーがひとつ、僕の手の中にあった。
「ルルーシュ。もしかしてこれ…」
マフラーを両手で広げて持ちながら、ルルーシュの顔を見る。
僕はポカンと口を開けて、呆然としてしまっている。
多分、相当間抜けな顔をしているんだと自分で思う。
「…スザクへの、クリスマスプレゼントだ」
ルルーシュが、手で口元を隠しながらそう言った。
しかし、顔が赤くなってるのまでは全部隠せていないようだった。
つられて、僕まで照れてしまう。
「前に、マフラーをどこかに落として失くしたって言ってただろ。最近寒くなってきたし、だから…」
ルルーシュが、目線をそっぽへ向けながらぼそぼそと呟く。
そういえば、いつだかそんな話をルルーシュにしたんだっけ。
自分ですら忘れてしまっていたことを、ルルーシュは覚えててくれたんだ。
しかも、お店で買ってくるんじゃなくて、わざわざ僕のために編んでくれて。
僕は、もう一度マフラーに視線を落とす。
とても丁寧に編まれていて、編み目は一切の乱れもなくきちっときれいに揃っていた。
元々ルルーシュは手芸が得意なようだったからマフラーを編むくらい容易いことなんだろうけど。
それでも、これほどの長さを編むんだからやはり結構な時間をとらせてしまったんだと思う。
忙しい中時間を見つけて作ってくれたのだと思うと申し訳なさで頭が上がらなくなるけれど、僕のいないところでも僕のことを考えていてくれたということが、やっぱり嬉しくて堪らなかった。
「ありがとう、ルルーシュ」
一生懸命マフラーを編んでいるルルーシュの姿を想像してしまって、思わず笑みがこぼれる。
ルルーシュは完璧主義だから、きっとものすごく真剣な表情で編み物をしていたに違いない。
「でもさ、なんで隠したりなんかしたの?」
「お前が、予定よりも早く現れたからだ!!本当はちゃんと、綺麗にラッピングして渡すつもりだったのに……!」
「なんだ、そんなこと。包装なんかしなくたって、すぐ使うからどっちでもいいのに」
そう言って、僕は早速ルルーシュの手編みのマフラーを首に巻きつけた。
「…もう、していくのか?それ」
「当たり前じゃないか。冬の間は、毎日つけていくつもりだよ。うわぁ、やっぱ手編みはあったかいなぁ〜」
えへへ、とマフラーに顔を擦り寄せて喜ぶ僕を見て、ルルーシュがくすりと笑った。
「そうか。よかった、気に入ってもらえて」
今日初めて笑顔を見せたルルーシュは、プレゼントをもらった僕よりも嬉しそうな顔をしているようだった。
僕にとって、ルルーシュの笑った顔が一番のプレゼントだ。
好きな人の笑顔を見られるだけで、それだけで僕はこんなにも幸せな気持ちになれる。
なんだか、ふわふわとしていてくすぐったいような。
そんな気持ちが、僕を優しく包み込んでいった。
「ルルーシュも、ほら!」
「うわっ!?何をするんだ、スザク!」
自分の首に巻いていたマフラーの半分を、ルルーシュの首にも巻きつけてあげた。
「こうやって二人で一緒に巻けば、もっとあったかいよ」
僕とルルーシュ、二人がひとつのマフラーにくるまれる。
長さに余裕はあるけれど、それでも二人一緒にとなると結構ぎゅうぎゅうだった。
必然的に、ルルーシュと体が密着する。
顔も、触れ合いそうなくらいすぐ近くにあった。
「だ、だけど。これじゃ、外にも出かけられないじゃないか…」
「だったら、今日はずっとここでこうしていよう?食事もイルミネーションも、全部キャンセル」
「お前はそれでいいのか?あんなに、楽しみにしていたのに…」
ルルーシュが心配そうな表情で僕の顔を覗きこむ。
宝石のような紫の双眸が、ゆらりと揺れていた。
あぁ、そうか。
僕が今日のデートを楽しみにしていたことを、ルルーシュは気にしているのか。
でもルルーシュ。君は勘違いをしているよ。
「僕はルルーシュがいるところなら、どこだっていいんだよ」
ぎゅっと、ルルーシュの細い体を抱き締めた。
今日この日。
特別な夜を君と一緒に過ごせるなら、どんな場所だって、どんな過ごし方だって僕は構わないんだ。
「…………」
やがて。
しばらく無言だったルルーシュが、もっと体を僕の方へとくっつけて。
「じゃあ、今夜はずっと俺のそばにいろ。こうして、マフラーを一緒に巻ける距離から離れるな」
耳元で囁いて、僕の背中に腕を回した。
「……っ、」
今度は、僕が言葉を失う番だ。
ルルーシュは、今なんて…?
「…スザ、ク?」
それからずっと僕が固まったまま動かないでいるので、ルルーシュが不安そうに声をかけた。
「……あー。やっぱり、このマフラー邪魔になっちゃうかも」
「?なんでだ?」
ルルーシュの怪訝そうな声がすぐ隣で聞こえる。
あぁ、違うんだルルーシュ!
君のマフラーがいらないっていうわけじゃなくて…。
「このままだと、君にいらやしいことができないからさ」
「…っ!!」
ようやく僕の言いたいことがわかったのか、ルルーシュは一瞬息を呑んだ。
ていうかもう、僕の下半身はすでに反応しかけていて、密着しているルルーシュの体に自己主張を始めていて。
ルルーシュもそれに気付いたのか、少し腰をもじもじと動かした。
「〜〜まったく。聖夜だというのに、お前という奴は…」
しょうがないじゃないか。
ルルーシュにあんな可愛いこと言われたら、もう襲うしかない。
それに、クリスマスの夜にいちゃいちゃしないカップルなんていないと思うんだ。
僕たちだって、例外じゃないだろ?
体の触れ合っている部分からお互いの熱が伝わって、あたたかい。
こんなにもぽかぽかするのは、きっとマフラーのおかげだけじゃないのだろう。
僕はもう一度その体を抱き寄せて、おでことおでこをくっつけてみる。
「ルルーシュ」
愛しい人の名前を呼べば、その温もり以上の微笑みをくれる。
僕も同じように、ふわりと微笑みを返した。
あぁ。ルルーシュが好きで好きで、堪らない。
今日は特別な日だから、いつもよりたくさん大好きを言おう。
でも、その前に。
「メリークリスマス、ルルーシュ」
end.
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