・カフェでデートするお話。
・甘々。
「ルルーシュは、もう決まった?」
「……いや。すまないがもう少し待ってくれ」
ルルーシュ・ランペルージは悩んでいた。
もう随分長いことメニュー表と睨めっこをしている。
今スザクと来ているのは、街中にあるお洒落なカフェ。
今日は二人で買い物をしていたのだが、少し休憩しようとスザクが言い出してここに入ったのだった。
ルルーシュが苦悩している理由は、ただひとつ。
このお店の自慢メニュー、特製プリンパフェを注文するか否か、だ。
カラメル色の苦悩いい年した男がパフェなんて頼むのは、勇気がいる。
周りに座っている他の客たちも、若い女性ばかりで。
その上、メニューの横には『今、女性に大人気です!』などと更にハードルを上げられてしまっている。
おかげで、こうしてプリン好きの男性が厳しい試練に直面するはめになる。
ここのプリンパフェは、美味しいととても評判だった。
だからこそ、一度食べてみたい。
でも…。
(くっ…。ナナリーと一緒だったら、注文する時に誤魔化すこともできるんだが…)
いかんせん今日は男二人だけ。
言い訳もできない。
それに、せっかく二人っきりで過ごしているのに、スザクに恥ずかしい思いをさせるわけにはいかなかった。
「ご注文はお決まりですか?」
なかなか呼びに来ないからか、ついに店員自らやってくる。
店員までもが若い女性で、とうとうルルーシュはパフェを頼むのを諦めることにした。
「えと、俺はブレンドで…。スザクは?」
結局、無難なものだけを注文する。
ずっと開きっぱなしだったメニューを閉じて、テーブルの端に置いた。
「じゃあ僕は、アイスカフェオレにしようかな」
ルルーシュが悩んでいた間に既に決めていたのか、スザクはメニューも見ずに店員に告げた。
ウエイトレスがオーダーを手に持ったリモコンに次々と入力していく。
ピッピッと電子音をいくつか鳴らした後、注文は以上でいいかと確認をしてくる。
ルルーシュがそれでいいと頷こうとすると、
「あと、プリンパフェも1つお願いしていいですか?僕が食べたいので」
スザクが横からそう口を挟んだ。
店員が少し意外そうな表情をしたが、すぐに営業スマイルに戻って、
「かしこまりました。すぐにお持ちいたします」
伝票をテーブルの上に裏返して置いて、店内の奥へと引っ込んでいった。
ルルーシュは、動揺を隠せないでいた。
自分がずっと悩んだ上できなかったことを、いとも簡単にやられてしまった。
どさくさに紛れてもう1つ注文すればよかったのにと、自身のつまらないプライドを密かに悔やんだ。
やがて、しばらく待たないうちに注文したものがすべて運ばれてくる。
持ってきたのは、さっき注文を取りに来たのとは別のウエイトレスだった。
「こちら、当店自慢のプリンパフェでございます。えーと…?」
「あ、それ僕の方です。わぁ、すごく美味しそうだ!」
スザクが目の前に出されたパフェをニコニコしながら見ている。
真ん中に大きな手作りプリン、スポンジ層の上に生クリームがたっぷり乗った豪華なパフェだった。
「それでは、ごゆっくりどうぞ」
お盆を下げて、店員がテーブルから恭しくおじぎをして離れていった。
ルルーシュはコーヒーをすすりながら、向かい側に置かれたそのプリンパフェをちらりと見やる。
子供のように笑って喜ぶスザクが、少し羨ましかった。
カップを持ち上げたまま目線を下の方へ伏せていると、コトン、と何かが置かれるのが分かった。
顔を上げて見れば。
そこには、スザクが注文したプリンパフェがルルーシュの目の前にあった。
「スザク…。なん、で…」
「これが食べたかったんだろ?ルルーシュ」
え、とスザクの方を見上げる。
ルルーシュはどうして、と疑問を顔に出さずにはいられなかった。
「だって、さっきからずっとそのメニューを見ていたし。…違った?」
図星を指されて、ルルーシュの顔が赤くなる。
スザクはいつもと変わらない笑顔でルルーシュを見つめていた。
「なんで、わかった?」
「わかるよ。ルルーシュは、昔からこういうことには意地っ張りだからね。我慢しないで、頼めばいいのに」
「……だって。恥ずかしいじゃないか…」
スザクが自分で食べるためではなく、最初からルルーシュのために注文してくれたのだと、ルルーシュはようやく気付く。
「この席だと、周りからはよく見えないし。クリームが溶けないうちに、早く食べた方がいいんじゃない?」
スザクに急かされ、ルルーシュはデザート用のスプーンを手に取る。
ずっと食べたかったものを目の前にして、少し胸が高まった。
「じ、じゃあ…。いただきます…」
「どうぞ、召し上がれ」
スザクが片手に顎を乗せたままテーブルに肘をついて、幸せそうにルルーシュを見つめる。
ルルーシュはカラメルソースのかかったプリンをすくって、ぱくりと口に含んだ。
好きな人の前で食べたその最初の一口は、とても甘くて苦かった。
end.
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