「恋文戦争 turn S」の続編。
・ヤンデレルルと病んでるスザク。











まず靴箱を開けて、それからロッカー。
最後に机の中を確認する。

それが、俺の日課になっていた。















  turn L















「今日も、入ってたか…」

腰をかがめて机の中を覗いてみると、教科書やノートに紛れて、手紙が混じっているのが見える。
靴箱に入っていたものを合わせるとこれで2通…いや、3通か。
俺はそれを慣れた手つきで取り出し、そして隣の自分の席へと戻る。

そう、俺が今チェックしていたのは自分の机ではない。
隣の席の、スザクのだ。

すべては俺の恋人である、スザクへのラブレターを回収するためである。


まだ登校するには早い時間なので、教室には誰もいなかった。
俺は自分の鞄の中に回収したばかりの手紙を押し込む。





スザクがナイトオブセブンになってから、女子からの人気が一気に急上昇していた。

元々あいつは誰にでもいい顔をするので、決してモテないというわけではなかったけれど。
でも、前はこんな風にラブレターが殺到するほどではなかった。

所詮みんな、地位が変わると態度も変わるものか。
お陰で毎日こうやって、スザクが見つける前にやましい手紙を探し出すはめになっている。


しかし、黙って手紙を隠すだけでは生温い。
俺は必ずそれを書いた全員に会いにいって、ギアスをかけている。
俺の男に手を出すな、と。

こうすることで、スザクへの思いはもちろん、返事が来ないことでラブレターをまた出そうとする輩を防いでいるのだ。
今日の放課後も、忙しくなりそうだ。





時間が経つにつれて、ぽつぽつと教室に生徒が入ってくる。

始業の時間まで、特に読む気のない本を開いて過ごす。
内容は頭の中には入ってこない。
ただ、スザクのことを好きな女を消すことを考えていると、楽しかった。
邪魔な相手は少しでもいなくなった方がいい。戦略の基本だ。



「おはよう、ルルーシュ」

「あぁ。おはようスザク」


隣から、いつもと同じ明るいトーンの声がかけられる。
本を閉じて顔を上げると、スザクが満面の笑みを浮かべて立っていた。
俺も、まさか人の手紙を盗んでいるなどと思わせないような微笑みで、爽やかに挨拶を返す。
スザクはラブレターのことなど知らないのだから、悟られてはいけない。


「ルルーシュ、最近学校来るの早いね」

「本の続きを早く読みたくてさ。静かなところの方が、集中できるし」

「そっか。読書好きだもんね、ルルーシュは。僕も一応、筋トレと訓練は毎朝欠かさずやってるよ」

「お前みたいな体力バカと一緒にするなよ」


お互い笑い合って、和やかな雰囲気が流れる。
大丈夫だ。スザクは何も気づいてない。
機情の監視カメラだって、俺の都合のいいようにいつでも細工できるようにしてあるし。
対策は万全だ。

スザクはラブレターのことなんて、ずっと知らなくていいんだ。


…お前は俺のことだけ、見ていれば。










放課後になり、いつもの仕事が始まる。

まず、かき集めたラブレターの差出人に会いに行く。
この時間は大体がクラブにいっているので、場所の予想もつくし探しやすい。
俺の頭の中には全校生徒の情報がすべて入っているので、難しいことではなかった。

問題は、ギアスの方だ。
もし以前ギアスをかけたことのある女だったら、もう手の施しようがなくなる。

「まずはこの1年からだな。確か、陸上部だったか…」

多分、グラウンドあたりだな。
こいつにはギアスをかけた覚えもないし、大丈夫だろう。


手紙を鞄の中に戻して、廊下へと出る。

長い廊下を、俺は早足で歩いていく。
もう生徒はほとんどクラブの方へ行ってしまっているらしく、校舎に残っている者はあまり多くはなかった。

そうだ、一応教室の方にも寄ってから行くか…。
外に出る前に校舎内から先に確認しておこうと、階段の方へと足を進める。

ついでに残りの奴らもいたら、ギアスをかけておこう。
アッシュフォード学園は広くて歩き回るだけで疲れるので、回る順番にも気を遣う。



ようやく階段の前までやってきた時、ふと近くでぼそぼそと話し声が聞こえてきた。
階段横の、あまり使っていない資料室からだ。

初めはこんなところに人がいるなんて珍しいな、とくらいしか思わなかったので俺は気にせずそのまま通り過ぎようとする。


しかし、





「この段ボール、この辺に置いておけばいいかな?」

「ありがとうございます。重かったから、手伝ってもらえてすごく助かりました…!」


聞き覚えのある声。
間違いない、スザクの声だ。

一緒にいるのは誰だ?
声からすると女のようだが、なぜこんな場所で二人きりで…。



俺は動揺を隠せなかった。
何をしているんだろう。何を話しているんだろう。

気になって気になって仕方なくて、気づけば資料室のドアの前に立って中の様子を伺っていた。





ほんの少し開けられた隙間から、かろうじて部屋の中が覗ける。

見えるのは、スザクと髪の長い女の二人だけ。
女の方はこちらの角度からは顔がわからなかったけれど。
大方、荷物を運ぶのを手伝ってもらうのだって、スザクと二人っきりになるための口実なんだろう。
そのくらい、この俺にだってわかる。

結局こいつも、スザク狙いか…!
俺は思わず歯をギリギリと噛みしめる。



「あの、枢木卿…」

「…普通に呼んでいいよ、学校ではただの同級生なんだし」

「は、はい!じゃあ、スザクさん…」

「うん、何?」


何故いきなり名前で呼ぶ…!?
スザクも、なに素直に返事をしてるんだ!


「もしよかったら、またこうやって二人で会っても…いいですか?」

「え?」


…なんて、ことだ。

いくら裏でラブレターを隠ぺいしても、直接本人に接触されるところまでは防ぎきれない。
アプローチの方法は、手紙だけではないのだ。
まさかこんな、積極的な肉食獣がいようとは…。
俺の計算が甘かったか。


ロングヘアーの女子は、スザクの返事を待っている。
俺もスザクが拒絶するのをひたすら待った。

頼む。早く、嫌だと言ってくれ…!



「…うん。僕は別に、構わないよ」

しかしスザクの口から出たのは、断りの言葉なんかではなくて。
女の、嬉しそうな声が聴こえる。



…俺は、ついに我慢できなくなった。


パァン!と勢いよくドアを開け、ズカズカと二人の間へと入っていく。
女の方がびっくりしてこちらを振り返るが、もう顔とかはどうでもよかった。


「る、ルルーシュ…?」

「うるさい!ちょっとこっちに来い…!」


スザクの腕を掴み、強引に引っ張っていく。

本気を出せば振りほどけるはずなのに、スザクは特に抵抗もせずに俺のあとをついてきた。




 
呆然と立ち尽くす女を無視して、俺たちはひたすら黙って階段を昇っていく。
そして、その先の扉を開けて屋上へと出る。

外はとてもいい天気で、風もあって気持ちよかった。


しかし今の俺には、そんなことは関係なかった。

掴んでいた手を離し、俺はスザクの方へ向き直る。



「スザク、今のはどういうことだ」

俺が問いただすと、スザクは表情を変えずにただ答える。

「やっぱり、さっきの見てたんだね…」

そう言って、目線を少し下へと逸らす。


知らない女と仲良く二人っきりでいた上に、今後も会う約束までするなんて。
そんなことしたら、気があるのかもなんて期待されるに決まってるじゃないか!

どうして、スザクがこんなことをするのかがわからなかった。
だけどよく働く頭が、どんどん良くない方へと勝手に考えていってしまう。


「お前…。俺に飽きたなら、そう言えばいいじゃないか…っ」


どんなに必死に考えても、行き着く先はこれだった。
俺と付き合うのが嫌になったから。
やっぱり女の方がいいから。
それ以外には、考えられなかった。

きっと、この後別れ話を切り出されるに違いない。
なんだ、今まで必死にラブレターを回収してギアスまでかけて、そんなことしたって意味なかったんじゃないか。
本当、自分がバカらしい。


結局、俺が嫌われていたんじゃ…。

悔しくて悲しくて、涙が出そうになるのを必死で堪える。



「ルルーシュ…」

スザクの声に、思わず構えてしまう。
だめだ、まともに顔が見れない…。


「嬉しいな、嫉妬してくれたんだ」

「へ…?」

嬉しい、と予想外の言葉に、疑問を隠せない。
俺の、聞き間違いだろうか?


「僕が女の子といるところを見たから、それで怒ってるんだよね?ルルーシュは普段あんまりそういうこと言わないから、ヤキモチ妬いてくれたのがなんか嬉しくて…」

スザクが照れながら笑っている。

ちょっと待て、俺はその女と会っていたことについて怒っているんだが。
なんでこの状況で照れるんだ…。


「なっ…話を逸らすな!さっきの女は、お前のことが好きなんだぞ?それなのに、あんな気を持たせるようなこと言って…」

「うん、知ってるよ」

「…、え?」

「わざと、そうやってるからね」


何を、言ってるんだ?
訳が分からなすぎて、頭がオーバーヒートしそうだ。


「だから、俺と別れたいなら…、」

「別れないよ」

スザクはキッパリと言う。
それから、一呼吸置いてからまた話を続けた。



「…前に、僕がルルーシュ宛のラブレターを持ってきたことがあっただろ?」

「……っ、」

ラブレター、という単語にいちいち反応してしまう。


「僕はね。他の子がそういう目でルルーシュのことを見ているのが、許せなかったんだ。僕のルルーシュを…取られたくなかった」

スザクの歪んだ視線が、まっすぐ俺を捉える。
俺はその悲痛を秘めた瞳から、目が離せなかった。


「なるべくルルーシュのことを好きな子を減らしたくて、ずっと悩んでた…。それでラウンズに入ってから、効率のいい方法を思い付いたんだ。いっそ、みんな自分の方へ気を向けてしまえばいいんじゃないか…ってね」



どういう、ことだ。
スザクが、わざと気のあるように振る舞っていた?
だからあんなに毎日、ラブレターが来ていたのか?


もう俺が、あんな手紙を貰わないようにするため…?



頭が混乱して、よろよろと後退りする。
しかしすぐ後ろにあったフェンスにぶつかり、持っていた鞄を手から滑らしてしまった。
落とした鞄から、勢い余って中身がこぼれる。

しまった…!それは…、


「ルルーシュ、なんか落としたよ」

スザクが散らばったそれを拾おうとする。

「や、やめろ!見るな…!!」

しかし、止めるのも既に遅く。
スザクがそれを見て、それが何なのかに気付く。


「これ…。僕宛の、手紙?なんでルルーシュが…」


だめだ。
スザクに知られた。
耳も目も、もう何もかも塞いでしまいたかった。


「通りで。最近来ないと思ったら、ルルーシュが持ってたんだね」

スザクの少し困ったような声が聴こえる。

俺が、ラブレターを隠していたことがバレてしまった。
俺は下にまだ散らばっている手紙を見て、胸が締め付けられる思いになった。



「…スザクは、バカだ。ラブレターなんて、ただの紙切れじゃないか…」

地を這うような低い声で、言葉を紡ぐ。
声が少し震えてしまっていた。


「そんなの受け取らなければいいし、無視すればいいだけのものなのに…!それなのにお前は、あんな風にへらへらと他の奴と……」

「ルルー…、」

「俺は…。お前が俺以外と仲良くしている方が、よっぽど嫌だ」



スザク、お前はわかっているのか。
お前が嫌だと思ったこと以上のことを、俺は味わっていたんだぞ。
自分だけが辛いなんて、やっぱりお前のそういう自分勝手なところは昔から変わってない。



スザクは何も言わずに俺の方を見ている。
俺は目を合わせることができなくて、相手の足元しか見れなかった。

やがて、スザクがしゃがみ込んで残りの封筒を拾い集める。
土埃を軽くはたいて、丁寧にそれらを整え始めた。

なんで…。
どうして、そんなものを大事そうに握っているんだ。


「お前…。まさか、それ全部読む気なのか?」

「うん、読むよ」

「……っ!」

「それで、ちゃんとお断りの返事をするつもりだよ。…好きな人がいるからごめん、って」


え?


「気を持たせておいて可哀想だけど…。僕には、ルルーシュだけだから」


…こいつは、本当に言ってることが無茶苦茶だ。
もう何がしたいのか、本当にわからない。
でも、スザクが誰よりも俺を選んでくれるということが、素直に嬉しかった。


「そりゃ、返事しないで無視することもできるけど…。それだと、諦めないでまた書いてくる子もいるだろうしね」



そうか。
スザクも、スザクなりにちゃんと考えているんだな…。


ギアスを使って、もう二度とラブレターを出さないように命令していた俺とはやり方がまったく違うけれど。

俺たちは結局、同じようなことをしていただけだった。





「スザク。お前、本当に断るつもりなんだろうな?」

「当たり前だよ。僕はルルーシュと付き合ってるんだから」

「…相手が、すごく可愛い子でも?」

「なに言ってるの。ルルーシュより可愛い子なんていないよ」

「……、」


スザクが目を細めてくすくす笑っている。

こいつは…天然なのか、わざとなのか。
耳がくすぐったくなるようなことを平気で言ってくる。
俺は顔を赤らめたまま、何も言えなくなってしまう。




「それにしても、4通か…。ラウンズ効果ってすごいな」

スザクが手紙をパラパラとめくって、しみじみと呟いた。


…ん?4通だと?
確か、今日は3通しかなかったはず…。


「あっ!」

俺はあることを思い出し、慌ててスザクの手から手紙を奪い取ろうとする。



「か、返せ!一通は俺のだ…!」

「え?…ルルーシュ、またラブレターもらってたの!?」

「ちが…っ」


自分は受け取ってるくせに、俺がもらうのは気にいらないらしい。
スザクが急に不機嫌な顔をし、身を翻してもう一度手紙を全てチェックし始める。

あぁ!だめだ、それは…。


「これ…。去年、僕があげた手紙…?」


少し色のあせた、白い封筒。
――スザクが、前に俺にくれたものだ。


「ルルーシュ、もしかして毎日持ち歩いていたの?」

「…………あぁ」

恥ずかしくなって、下を俯く。
あんな頭の悪い文章しか書いてないけれど。

それでも、俺は嬉しかったんだ…。


「ルルーシュ…!」

「わっ。離せ、スザク…」

「大好きだよ、ルルーシュ!」

スザクが勢いよく飛びかかってくるのを、かろうじて受け止める。
離せと言ってるのに、抱きついたままなかなか離れない。





「今度、僕にもラブレター書いてよ。ルルーシュ」

そんなにたくさんもうもらっているくせに、まだ欲しいとその口は言う。
この欲張りめ。


密着したスザクの体に顔をくっつけて、幸せでにやけてしまう口元を隠す。



「気が、向いたらな」


そう言って。
あたたかい腕の中で、静かに目を閉じた。















end.



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