「雪だよ」


空から結晶がひとひら。
頬に当たるのは、水にしてはくっきりした冷たさ。肩に掛けたマフラーにも落ちて、じわり滲む。
自分より半歩前・頭一つ分下に、相変わらずキンキンに光る金が放った言葉は見上げた空に吸い込まれて、その過程で自分の耳にも届いた。


「結構降ってんね」
「ああ」
「積もるかな」
「かもな」
「そしたら明日の練習なし?」
「野外は無理か…そしたら室内ミーティングだ」
「えぇーーー……」


長い溜め息が白くなって吐き出されたのを見て、前方の金髪の頭をこつりと叩いた。イッテっ なんて小さな悲鳴。その内にその姿を追い越す。
(ジローはミーティングが苦手なんだ。毎回寝てやがる)


「雪合戦とかしよーよ」
「しねーよ。テメェだけでやってろ」
「岳人はきっと付き合ってくれる」
「凍死しろ二人で」
「ばかあー」


ボフッと背中に重みを感じて、足を止める。背中に当たる肌の感触、腹に回された手は寒さで指先が真っ赤だった。
はあ、と俺が吐き出した息も白く変わる。そして、消える。



「…動けねーだろ」
「俺が岳人と心中してもいいわけ」
「知らねーよ」
「知っとけよ」
「誰に口聞いてんだテメェ」
「いたいいたいいたいっ!」


力任せに振り返って、すぐその左頬をつまんでやればいつもの間抜けな声が上がった。
ゆっくり引っ張る手を解放してやると、頬に指の痕が赤く残ってる。白い肌にそれがいやでも映える。


「いってぇー…爪食い込ますな…」
「…白いな」
「、はへ?」
「雪兎みたいだ」



呟けば、目を丸々見開いたジローの顔が、耳から頬と、順々に赤く染まっていく。何に照れてんだテメェは、と呆れて声出せば、ブンブンと顔を横に振られる。


「ち、ちがう…C…」
「なにが?」
「なんか…」
「なに」
「……自過剰とか思わない?」
「言え」


まどろっこしい。
ジローがマフラーに顔を埋めた、その顔は更に赤くなっている。



「……すごく、いとしそうに言うから」











「…………自過剰」
「…だから言いたくなかったんだよっ!」
「はぁ…」
「ほら溜め息ーっ!」





言葉に詰まったのは、半分くらい当たっていたから。


(そんなの、いつも思ってることだ)




(20110506)
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