閉ざしていた視界に、そっと光が差し込む。

柔らかいシーツの感触と嗅ぎ慣れた香りにまた瞼が重たくなった。…跡部のにおいだ。そっか、昨日はお泊まりしたんだった。順番にお風呂に入って、それから、それか、ら………





「……っあーーーーー!!!!」
「起きたのか」
「あ、あ、あとべ、!」
「ずいぶん騒がしい起床だな。夢見でも悪かったのか」



淡々と言ってのける跡部は、何事もないようにソファーで紅茶を飲みながら英字新聞を捲っていた。
きっと寝癖でぐちゃぐちゃであろう髪を更にかきむしりながら、必死に昨晩の記憶を手繰り寄せる。お風呂に入って、ソファーで跡部にドライヤーをかけてもらったあと、ちょっとEカンジになって、ベッドに移って、(あ、ヤベこの先なんか思い出すの恥ずかC……)……跡部がマジマジかっこよくてエロくて気持ちくて頭ふわふわして、そこから、


(き、記憶がない………)



「跡部…おれ……」
「そのまま起きるなら顔洗ってこい、朝食の準備もできてるぞ」
「……どこまで、その、」
「………」
「…あとべぇ………」
「…10分で落ちた」



最悪だ。

ぼふん、と羽毛布団の上に逆戻り。
やっぱり寝たのか。自分の睡魔をここまで恨めしく思ったことはない。昼間も夕方も晩飯のあともしっかり寝たのに。それはもちろん夜に控えた、跡部という最高の恋人との、所謂大人の時間の為に。

そのまま魂が抜けて動けずにいる俺に、跡部がソファーから立ち上がって近付いてくる気配がする。


「……ごめん」
「…謝るくらいならするな。そもそも何度目だ…学習しろよ」
「っひっでーー!!俺だって好きで寝るんじゃないし!!大体跡部も跡部だよ!!ひっぱたいて起こしてくれればEじゃん!!」
「挙げ句責任転嫁かテメェ」
「跡部のバカーーー!!」
「今ひっぱたいてやろうか」



一通り八つ当たりをしてから枕に突っ伏した俺の首根っこを跡部が掴み、いとも簡単に体は起こされ、目の前には先程の発言通り「ひっぱたいてやるよ」と言わんばかりに目をギラギラさせた跡部さま。一応歯ぁ、食い縛っとこ。



「ジロー、」
「…」
「ああも気持ち良さそうに寝息立てられたら起こせるわけないだろ。寝込み襲うなんざ無様な真似できるか」


食い縛った咥内は、脳から送られてきた甘い蜜で一気に満たされた。
跡部のこういうところが本当に、どうしようもなくツボだ。突拍子もなく素直になったり、優しくなったりする。ギャップというのかツンデレというのか。とろとろの液体が、咥内だけじゃなく身体中に流れ込む感覚。あたたかくて、でも少しむずむずして、こしょばいけどその感覚がたまらなくきもちいい。
それが溢れ出したら、跡部に伝えようとすぐに抱き付く。



「……ごめんね」
「……もういい」
「俺次は頑張るから、寝ないから、だから俺にまだチャンスをちょうだい。お願いだよ……」
「……ったく。次やったらお触り禁止にしてやる」
「えーっ!それは困るCー!」
「こっちはとっくに困り果ててんだよ。精々長く起きてられるよう対策を考えるんだな」


跡部の胸に顔を埋めていれば、跡部は会話とは相反してとても優しく俺の髪を撫でてくれる。
困り果ててるかぁ、跡部も困ってるんだなぁ、困らせてるんだなぁ、不謹慎だけどそれも嬉しいなぁ。



「やっぱり唐辛子かな……」
「やめろ、キスが辛くなる」
「へへ、大丈夫だよ、跡部はあまぁいから」
「なんだそれ」



フッと笑った跡部の頬にちゅ、とキスをする。滑らかな肌の感触に病み付きになって、そこをペロリと舐めてみた。跡部はさすがにそんな奇行まで読みきれなかったらしく、咄嗟に俺を引き剥がした。



「っ犬か、テメェは」
「だってぇー」
「俺様を味見なんていい度胸じゃねぇか」
「次は跡部が食べる番だね」
「お預けばっかくらわしてる奴が言ってくれるじゃねーの。今夜こそ覚悟しとけよ」
「うんっ!俺、早く跡部に食われたい!」
「………(満面で言ってる意味わかってんのか…バカ」




跡部が俺の頭を抱え込んで、そのままそれこそ食べるように口付ける。
すっかり夢中になって舌を絡ませあっていた途中で突如それは引っ込んで、唇も離れていった。
濡れたそこを親指で一拭い、「お預けだ」、だって。
そりゃないよーあとべさまあー。




(20160720)









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