このご時世に許嫁とかアンタは2次元かよ、どこぞの王族かよとツッコんで即座にその通りだったわと納得した。(なんなら帝王でしたね、)


跡部にはフィアンセがいる。
誰、と聞いたところで具体的な回答は返って来ない。なぜかというと、複数人存在するからだ。
世界にまで名が知れ渡る跡部財閥には、各国に取引相手や親交を深める企業が存在し、もはやその名前はひとつのブランドだ。そのお坊ちゃまである跡部も大変魅力的な宝石もしくはブランド品同然なのである。『名ばかり』といったらそれまでだが、格式及び形式的なフィアンセという名称を数多の人間が欲しがるのも無理はない。
まぁ、当の本人、一切我関せずだけど。





「親が勝手に決めたことだ」


その言葉もさ、実際に言ってる奴初めて見たよ。どこまでも期待を裏切らないね、跡部って。

でも、跡部がそう言ったって、相手はその気でしょ、確実に。だって向こうからしたら、ただの金持ち同士の政略結婚ってわけでもない。親が会社が決めようが、そのお相手が地位と財力だけに止まらず、文武両道・容姿端麗と来たら、願ったり叶ったりだろう。



「いい親だね、なんでも決めてくれて」
「どういう意味だ」



俺が寝転がるソファーの目の前のテーブルには、起きっぱなしにされた跡部のケータイが絶えず同じ画面を映し続けている。
callingの文字と一緒に並ぶのは知りもしなけりゃ知りたくもない女の名前。
それに気付かぬフリか、気付きながらもガン無視か(意味一緒か)、跡部は生徒会長専用のでかでかとしたデスクで淡々と生徒会の仕事を進めている。
カーテンの開けられた窓からは、容赦なく西日が射し込んできて、さっきまでは見えていたはずの跡部の表情が、逆光で見えなくなっていた。生徒会室もすっかり夕焼け色に染め上げられている。


「ねえ、さっきからうるさいよ、跡部のケータイ」
「うるさいわけないだろ、マナーモードにしてるだろうが」
「ちがうCー。目障りなんだよー」


チクッとした単語に、跡部は黙って座っていた椅子から立ち上がり、テーブルのケータイを手に取る。
その伸ばされた腕、画面を触ってスライドする指、耳に当てる一連の動作まで、寝転んだままずっと見上げていた。
跡部の整った唇から、「Hello, 」と流暢な発音がまるで息を吐くように零れるのに、なんだかさみしさすら感じた。



「ジロー、寝るなら先に帰ってろ」


電話で一通り会話をしたあと(終始なに言ってるかわからなかったけど)、跡部がそのままケータイを弄りながらこちらに目線もくれずに呼び掛ける。
俺がご機嫌ななめなことと、それによって部屋の空気が淀んでいることに気付いているんだろう。プイッと背中を向け、投げ掛けには無視をした。
跡部は小さく息を吐く。頭、ひっぱたかれるかも。少し構えて、肩を竦める。


想像に反して、振ってきた手は柔らかかった。



「拗ねるな。いつか全部一掃してやるよ、あんなの」



下らない、幼稚な嫉妬を跡部は優しく宥める。
いつも上から目線で横暴なくせに、こういうときばかりは目線を合わせてくれる・労るように触れてくれる跡部が憎い。憎らしいくらい、好きだ。
そんな風にされたら、きっと勘違い女達は益々跡部に落ちてしまうだろう。まぁ尤も、されやしないだろうけど。


「……いつかじゃなくて今してよ」
「大人の都合もあんだよ」
「そんなん知らないよ、俺」
「そうだな、お前は知らなくていい」
「なにそれ」


同い年なのに、こんなに近くにいるのに、跡部はいつも離れた場所を歩いている。きっとそこからは、俺には見えない景色が見えているんだろう。



「跡部、」
「なんだよ」
「抱っこしてくれたら、許す」



俺だって、そこまでガキじゃないよ。

跡部がいる世界・置かれてる環境、全く憶測がつかないわけじゃない。わからず屋でもないんだ。
でもわからないふりしてる、わかりたくなんてないから。
全部言うこと聞ける良い子ちゃんになんて、俺はなりたくないんだよ、跡部。




「何様だ、テメェは」
「……ジロー様」
「バーカ、お子様」




俺を抱き上げた跡部が、肩口に顔を埋めながら、小さく笑った。




(20160710)
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