*微未来設定/高校生



中学からエスカレーターで進学した高校。その3年間もこれといって代わり映えもせず過ぎ去り、卒業が近付いていた。

学校生活は可もなく不可もなく、相変わらずテニスに明け暮れて、たまに練習サボって跡部に叱られて、そこらへんで眠りこけては跡部に叱られて、授業中も眠りこけてテストが散々だったときも跡部に叱られて、……あれ?なんか俺、叱られてばっかじゃね?まぁいいや。

跡部も相変わらず、俺様で横暴で破天荒でプライドが高くて口が悪い、でも面倒見が良くて遠回しだけど優しくてテニスがうまくてマジ死ぬほど強くてマジマジかっけぇ跡部だった。
俺達は相変わらずお付き合いをしていた。
なんでここまで続いたかは、正直俺にもわからない。気持ちがすれ違ったり、遠ざかったりするような瞬間もあったと思う。それでも繋ぎ止めたのは、結局いつも跡部だった。


忘れもしないが高1の夏、跡部に留学の話が持ち上がった。むしろこれまで上がらなかったのが不思議なくらいだ。だからってわけでもないけれど、俺は至って平然だった。元々跡部は学校でも私生活でも常に忙しそうだったし、テニスもやっぱり俺とはレベルが段違いだったし、なんかもう住む世界違うなーとか俺なりに理解もしていたわけで、だから実際マジで住む国ひとつ変わったくらいで何が起こるんだ・何も起こらないだろ、って。
要するになんか、強がってた。
そんなのあっちはすぐに気付くのに。



"俺は、留学はしない。日本でやることがある。ほっとけない奴もいる、すぐ道端で寝こける危なっかしい奴もいる、俺がいねぇと半べそかく奴もいる"




そう言って跡部は俺の頭を撫でた。
奴奴奴って、それ全部俺じゃねーのか。
そう思ったら半べそが完べそになった。
跡部はそのまま俺を抱き寄せる。涙が制服のブレザーにみっともない染みを作った。跡部は少しも気にするどころか、その手には力がこもっていた。




"ありがたく思えよ、ジロー"
" ……ぐすっ、お゙れ゙ざまからは、離れられないっで?"


"俺様が、離れられないんだ"





まるでそれは永遠の言葉のようだった。
あの日の帰りに見た夕陽と跡部の制服の染みを、俺はきっと一生忘れないと思う。

そんなこんなで俺と跡部は頑なに離れることはなかった。
しかし、この高校生活の終幕と共に、ひとつの節目が訪れる。
跡部は大学に進学せず、家業を手伝いながらテニスを続けるという。跡部らしい、跡部なりの人生の決断だ。俺にそれを阻む資格もなければ、これまで散々自由を奪ってきた身でこれ以上彼の将来の足枷になるわけにはいかない。俺もこの数年で成長していた。でもやっぱり過ごす時間が短くなることを考えると目頭が熱くなってしまう。涙腺って、どうやったら締まるんだろう。



「お前、進学はどうするんだ」
「ん〜。一応私立に推薦で決まったよ」
「そうか」
「跡部と学校通えんの、もうあとちょっとだね」



夏が終わり、夕暮れ時に吹く風は心地好い冷たさを纏い始めた。
最近は俺の提案で、車の迎えは呼ばずに二人で歩いて帰る時間を作るようにしていた。部活も引退したし、運動不足対策に、なんて名目をつけて、実際は跡部とふたりきりで話したり過ごしたりできる時間が欲しかっただけだけど。たりぃ、と一蹴されるかと思ったら跡部は意外にもそれに乗ってくれた。もしも同じ気持ちでいるのなら、嬉しい。



「どうした。お前らしくもねぇな、そんな話」
「はは、そだね。嫌いだからね、こういう湿気た話。でもたまにはいいかなぁ、って。色々振り返ってみるのも」



跡部と付き合い始めたのも、夏の日差しが強いあの季節。中3の夏、俺達は相変わらずテニスに明け暮れて、跡部は手塚で頭が一杯で、俺は丸井くんの天才ボレーで頭が一杯で、今考えたらあんまりお互いのことを意識したり考えたりできてなかったかもしれない。それが季節を変えて、少し今みたいな冷たい空気を纏い始めた頃、俺達はようやく恋人らしくなれた気がする。

いつも同じ目線で、同じものを見てきた。時には同じ夢を追いかけて、同じ焦燥感に苛まれて。俺が笑うとき、泣くとき、いつも跡部がそばにいた。俺もそうしてあげれたかな?勝ち気で強がりな跡部だから、涙はあまり見せてくれなかったかもしれないね。その分たくさん笑わせてあげれたかな、辛いことも忘れられるような、楽しい時間を与えてあげられたかな。



「ずーっと、続いたらいいのになぁ」


不可能だとわかっていて、乾いた空気にお似合いな乾いた言葉を溢す。
未来なんて来なくていい。卒業も進学もしたくない。跡部なんだから、なんとかできないの?「離れられない」って、言ってくれたじゃんか。




「そうだな」
「……跡部らしくないね」
「嫌いだからな、こういう現実逃避した話」
「だよねー」
「たまには、いいかと思ってな」
「……うん」
「今に縋り付いてみるのも」



いつだって先を見据えて進んできた跡部が足を止めた。俺のために、止めてくれた。
泣きたいよ。



(もう、続かなくてもいい。
時間よ止まれ、この瞬間を永遠に閉じ込めて。)



(20160708)

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