あの後、結局俺はテーブルに乗ったご馳走に次々と舌鼓を打ち、すっかりお腹もいっぱいになった。
改めてちょろちょろと会場内を見回してみると、跡部の姿がない。え、やだ、一人にしないでよ、不安になるじゃん。さっきまで淡々と胃袋を満たすことに没頭していたくせに、大変身勝手な言い分だが。


「坊ちゃまは別室で会食を行っております。」


近くにいた、いつも跡部のお供をしている執事さんに尋ねると、丁寧にそう返ってきた。
立食パーティーの中の更に会食って、どんなんだろうか。上流貴族のシステムはわからない。
お腹がいっぱいになって、なんだか眠たい。


「、くあぁ〜…」
「おねむでいらっしゃいますか?」
「お、おね、…あ、ええ、はい…」


執事さんは俺を赤ちゃんと思ってらっしゃるのか。


「坊ちゃまのお部屋にご案内致します。『ジローが眠そうにしたらそうしろ』と、言伝を受けておりますので」





用意周到なキング様でいらっしゃる。







 跡部の部屋に案内される。別に初めて入ったわけではないが、何度入っても広いと思う。人1人の個室だとは思えない。
瞼がかなり重たくなってきていて、そろそろ意識を手放すのも時間の問題だ。なんとかキングサイズのベッドまで辿り着いたかと思えば、その周りとシーツの上には、山のようなプレゼントと花束が置かれていた。
すげぇー…


「…やっぱ跡部って、スゲェや…」


呟いたのを最後に、俺は柔らかいシーツの上にダイブして、そのまま瞳を閉じた。
鼻先を、花束のバラの香りが掠める。お花畑で寝てるみたいだ。










『景吾、おめでとう。』

『景吾くんおめでとう。』

『おめでとうございます』

『おめでとうございます。景吾様』





 跡部はきっと、毎年あんな風に、沢山の祝福を浴びて、歳を重ねてきたのだろう。
だって跡部は、祝われるべき存在だから。世界中から、世界が、跡部が生まれた事を誇りに思うし、喜び、讃える。


でも、それが当たり前だとは、どうか、思わないでいて。
君が生まれた今日この日が、本当に本当に、特別な日だってこと。





「───ジロー、起きろ。」



目を開ける。
薄暗い部屋の中。窓から差す月明かりが、その顔に影をつくる。

、跡部。




「制服、皺よるぞ」
「ん、ぁい…」
「今日は悪かったな」


退屈させて、。
そう言いながら、腕の中に抱えていた新しい花束をベッドに置く。甘い香りだ。また瞼が下がりそう。


「全然。ご飯おいしかったし。」
「…そうかよ」
「跡部って毎年こんな風に過ごしてるんだな、ってのも、わかったし」


フフ、と笑ってみせれば、跡部もゆっくり、口端を上げて笑った。
やけに大人びて見えるのは、召かし込んだスーツのせい?この暗峠のせい?
それとも、(、それとも)



「いらっしゃい」
「?なにが」
「やっと同い年だね」
「…あぁ、」

納得したように息を吐く、跡部。

「俺は別に歳が離れてたとは思ってないがな」
「えぇー」
「誕生日だって、毎年そんなに変わり映えもしねぇし、」
「ふふ、」
「けど、」
「ん?」
「今日は、近くにいて欲しかった」



あぁ、なんで、そんなこと言うの。

泣いちゃうって。



「、おめでとう」



きっと、もう今日は何度も貰った言葉を、俺の拙い言葉でも、贈らせて欲しい。

起き上がって、跡部の首にギュッと腕を回して抱き付いた。



(今日だけじゃなくて、ずっと、そばにいさせてね)




「…今日はもうずっと、独占だね」
「…どっちが?」
「おれが?」
「アーン?俺様だろ」




額をコツンと触れ合わせあえば、二人の時間が始まる。
君は世界で特別な存在だけど、俺にとってはいっとう、そうだよ。
どうか君にとっても、そうでありますように。





Happy birthday 2011/10/4
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