3時間目の休み時間。次の数学が終われば昼飯だ。今日は風間達と学食に行く予定!早く数学終われ!そう思いながら、いつも通りにガムをポケットから出して口に放り込む。ねみーなあ。3時間目が終わって、まゆこは友達に連れられてトイレへと行った。世にいう連れションと言うやつだ。前にまゆこにそう言ったらキレられたけど。


「ねーねー丸井くんっ」
「ん?」


まゆこの前の席の遠藤サンが、突然振り返って話しかけてきた。遠藤サンは実は風間の推しメンなのだが、確かに可愛い。そしてすげーギャル。ノリが初めて話したとは思えない。遠藤サンは、ちらりとまゆこの席を見ると、再び俺に振り返った。


「丸井くんとまゆこちゃんって、付き合ってるの?」


出た。4月から幾度と無く、何度も繰り返された質問だ。もう俺に聞くなよ。周りに1人くらい絶対知ってる奴いるって。この間、他のクラスの遠藤サンと同じ部類だと思われるギャルにも聞かれて答えたんだけどなぁ。ギャルはギャルでみんな繋がってるもんだと思ってた。

「あーいや、付き合ってねえけど」
「えー!やっぱりそうなのー?」
「…知ってたの?」
「幼なじみだっては噂で聞いたんだけど、でも本当に仲いいから付き合ってるのかなと思ってた!」

なんなんだよ。そろそろ付き合ってないって自分で言ってて虚しくなってきてんだよこっちは。俺のそんな気持ちなど知る由もない遠藤サンは「じゃあさじゃあさ!」と目をきらめかせて俺を見る。

「まゆこちゃんって好きな人いるのかわかる?」
「…え?」
「幼なじみの丸井くんなら知ってるかなーって!知らない?」

まゆこの好きな人?…そんなのは考えた事がなかった。今まであいつとそんな話した事あったっけ?あれ、つーか俺、いつからまゆこの事好きだったっけ…。てかまゆこってもはや初恋まだなんじゃね?遠藤サンによって俺の中に落とされた新しいワード『まゆこの好きな人』は、反射してぽんぽんと疑問を生み出していく。そして俺は思った。俺ってまゆこの事なんも知らねえ。

「おーい」
「あ、おお。知らねーけど、いないんじゃね」
「えー本当?絶対?」
「わかんねえよ、なんでそんな事気になんの?」
「私の友達がねぇ、去年まゆこちゃんと同じクラスでね!まゆこちゃんの事少し気になるみたいだから、丸井くんにこっそり聞いてみようと思ったの!」

出た。パート2。その情報牧野に聞いといて良かったわ。聞いてなかったら、たぶんここですげー動揺してた。…ん?でも待てよ、去年まゆこと同じクラスって、牧野とも同じクラスって事だよな?

「ふーん。名前なんてーの?」
「あ、気になる?気になっちゃう?」
「別に、遠藤サンが言わないなら牧野に聞くけど」
「そっか、牧野くんがいたかー」
「そうそう」

遠藤サンと2人、牧野に目をやる。俺等の視線に、というか遠藤サンの視線に気づいてしまった牧野は、めちゃくちゃ顔を真っ赤にしていた。そして寝ている風間を起こして自慢している。と見える。可愛いヤツめ。


「うーんと、バスケ部の進藤なんだけど…知ってる、よね?」
「……名前なら聞いた時ある」


確かいつも女子が、その名前を叫びながらきゃーきゃー騒いでた。進藤クーン!って。それから察するに、イケメンか、スポーツが凄いか、はたまたその両方か。…いやでも、なんでそんな奴がまゆこを?そして、イケメンだからとかスポーツが出来るからとかっていう理由でまゆこが親しくする事はないと思う。たぶん。恐らく。

「でも丸井くん友達多いから、知らない人まで覚えてないか」
「別にそういう訳じゃねーけど」
「まあそれでね、その進藤がまゆこちゃん可愛いって言ってたから聞いてみたんだけど」
「へえ」
「でも丸井くんでも知らないんだね!意外かも!」

遠藤サンはそう言うけど、知らないも何も、気にした事がなかった。でもまゆこももう高2。今年で17歳。セブンティーン。俺って、テニスはハイパー出来るけど、実はあほだったのかもしれない。好きな人の好きな人って、当たり前に気になるもんじゃね?
「まあいっか、いなかったことにしよーっと」。遠藤サンはそう言って前を向くと、ポケットから携帯を取り出して何かしていた。でも今の俺にその言葉は届く事なく、耳を素通りして何処かへ消えてしまった。とりあえず、昼飯食べながら牧野に尋問だ。早く数学終われ!

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