「今日は俺の授業前に席替えするぞー」


よっしゃあ!やったー!担任が朝のHRの時にそう言った瞬間にクラス中から上がる歓喜の声。俺も別に今の席に不満がある訳でも無いし、たぶん他の奴らもそうだと思うけど、席替えってのは何故だか盛り上がる。今日の世界史は…1時間目じゃん!特に他の連絡も無かったHRはさっさと終わり、短い休み時間。目の前の牧野がこちらに振り返った。

「丸井、お前と出会えて良かったぜ」
「そうだなー、また近くになれっかな」
「なー。女子はこのクラスなら誰でもいいけど」
「すげえクズ発言だなそれ」
「うっせ!俺には丸井みたいにまだいないの。むしろ頼みの伊勢ちゃんは誰かさんがだめだっていうし」

まゆこがタイプだと言った牧野には確かに申し訳ないかもしれないけど、でも1年の時まゆこと同じクラスだった牧野のおかげで、男子の中でのまゆこの評価がわかってきた。まず、男子禁制のようなものはむしろプラスらしい。男の事知らないんだろ?みたいな。とりあえずそんな奴には、間違っても変な期待はすんじゃねーよ!と言ってやりたい。あと俺はまぁ何っ年も前から思ってたけど、顔が可愛いってのも一部男子には言われてるらしい。でも、俺の知ってることを他の奴らに言われるのは嬉しくねーなって思った。
1時間目の始まりを告げるチャイムが鳴る。がやがやとみんな席についた頃に、あらかじめ教材を持ってきたおかげで休み時間中に簡単な席の図を書いていた担任は声を上げた。


「じゃあ席はくじ引きで決めるからなー。黒板に番号書いてるから、全員引いたら荷物持って番号のところに移動すること!んで、こっちからこう、後ろに引いてくことにしました!今!」


色々緩めな担任の案で、俺は引くのが結構遅めになってしまった。まゆこは早めだな。まゆこの方を見ると、目が合った。「おまえ、わかったら、おしえろよ」そう手と口パクで言ったら少しして俺と同じように口パクで「なんで?」と返ってきた。なっ、なんで?なんでって、それ、聞くか?まさかの返しに困って少しの間返せないでいると、どうやらまゆこの番になったらしく、席から立ちあがり前の方に歩いていった。

「やべえすげー緊張するー!」
「まだ早いだろい」
「でもよー、せっかく丸井の近くだったのに離れて知らない奴しかいなかったら嫌じゃん」

そう言う牧野がこっちを向いてうごうごしている。でも俺はそれには目もくれず、くじを引いて自分の席へ戻っていくまゆこを見ていた。席に着くと、先に引いた友達から声を掛けられてそれに答えている。「えー本当?やだー遠いー!」。どうやら席が離れてしまったらしく、まゆこは悲しそうな声を上げていた。そして友達との会話が終わると、今度は俺の方を向いた。両手を使って表した数字は「4、2」。黒板を見ると42番は一番窓際の一番後ろだった。あいつ、くじ運すげーな。

「はい次ー」
「俺だー!やべー緊張する!」
「牧野ー、俺3だよ」
「俺10」
「俺は12」
「え、風間は?」
「俺は11だよー」
「なんっ、すげーな!みんな近いじゃん!俺もその辺に混ざりてー!」

前半の仲いい奴らは見事に廊下側に固まったようで、むしろ4番を取ろうものなら4人四角く固まることになる。「4、よん、四…」、ぶつぶつと呟きながら牧野は教壇に向かい、くじを引いた。


「……ガッデム!」


くじを開いた瞬間、牧野が膝から崩れ落ちた。前半組は爆笑。俺も爆笑。ガッデムって!一瞬でその言葉が出てくるお前が一番すげーよ!俺は悲鳴をあげる腹筋を軽く抑えながら、今だ崩れ落ちてる牧野の横を通り過ぎて教壇へ。あれ、まゆこ何番だっけ…。牧野で笑いすぎて色々と吹っ飛んだまま箱に手を突っ込む。よく出来てんな、この箱。がさごそ。あっそうそう、まゆこは42番だっけ。そんなことを考えながら取り出し中を開けると、そこには担任のなかなか乱れた字で"4"と書かれていた。……あれ?

「丸井何番ー?」
「4」
「まじかよ引きつえー!」

前半組が再び可笑しそうに笑う声が聞こえてきた。そうだそうだ、4って前半組と一緒だったんだ。席に向かおうと顔を上げると、信じられないくらい悲しそうな顔の牧野がいた。

「だ、大丈夫かよ?」
「いーなあ丸井…いーなあ4番…」
「結局何番だったの?」
「…35だよ!俺1人だけ全然違うじゃんか!島流しかよ!」
「……え?」

35…?黒板の席割りを見ると、42の隣りには35が書いてあった。そして、肘をつき項垂れる牧野の手からひらりと舞い落ちた小さな紙にも35文字が。

「牧野」
「なんだよう…」
「それ、交換しねえ?」
「……は?」
「だから、その35と俺の4と」
「なっ、ええ?なんで?」
「じゃあ全員引いたから移動しろー、授業出来なくなるから急げよー」

がたがたっ。周りが席の移動のため立ち上がり、各々の荷物を取り出し始める。

「牧野、この席じゃ嫌かよ?」
「いやっ俺は全然だけどっ、」
「じゃあ交換な!」

俺が何を言っているのか、何でそうなるのかわからない。牧野の顔が全てを物語っているけど、説明してる暇はなかった。クラスのほとんどが移動し始めていて、俺も急いでカバンと机の中のものを引っ張り出す。そして35番と書かれた紙を掴んで「牧野サンキュー!」と声を掛けて、席を移動した。

もう先に席に着いていたまゆこは、空いてる隣りの席が誰になるのか気になっていたのか、そこに向かっていく俺を不思議そうな顔で見つめていて。「じゃあこれから、シクヨロ!」、俺が机の上に荷物を置くと、更に戸惑った顔になった。

「なんで、あれ?ブン太4番って…」
「そうそう」
「そうそうって…風間くんとか一緒だったんでしょ?」
「牧野があんまり可哀想だから、別に俺はまゆこと話せるし、席交換したんだよ」
「……あ、そう」

ウンウン、この理由、変じゃねーよな。牧野が移動した先を見てみると、騒がしい塊が出来てた。「フゥー!」「いよっ!男丸井!」。あーもう本当にうるせえ。でも、牧野にはまじで感謝だ。お前の引きの強さ、本当にすげーよ。むしろ俺がいなかったら、望み通りといっても過言じゃねえしな。まあこれを機にまゆこは諦めて、次は他の奴のために使ってくれ。その時は俺の力も貸してやるからよ!

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