「なんで野郎だけなんだよ…マジで…」


前半が終わり、ベンチに座った風間が周りに集まってきた面々を見て思わず呟いた。

「あのなあ、俺らだって行けるもんなら女バレの応援行きてーわ」
「本当だよ!せっかくA組女子みんな可愛いの揃ってんのに」
「かと言って男バス残して女バレ見に行く訳にもいかねーし…つーかそんなのしたら絶対引かれるし」
「……はあ」

風間の呟きに対して沢山の批判が返ってきて、最後に牧野が大きなため息をついてそれを締めくくる。

2Aはほとんどの競技が順調に勝ち上がり、3日目の準々決勝にも男バス、フットサル、女バレ、バドミントンの4競技が残っていた。しかしおかげで、試合時間が重なるようになっていて。昨日なんて丸々一日あってまゆこと一緒にいれたのは、バドミントンの試合と女バスの応援だけ。つーか女バスの応援だって、戦況がすぐに変わるから話なんて出来たもんじゃねーし、その後俺が暇になってもまゆこは友達のとこ行ってていねーし、…今日も既に女バレの応援でいねーし。

「とにかく、こんな野郎しか見てねーところで負けてらんないっしょ!」
「……なんだよ風間、すげー気合いじゃん」
「ああ、丸井いなかったもんな。初日の男バスの後に遠藤ちゃんがさ」
「あーあー牧野!言わなくていいから!」
「え、何なに?」
「何もねーし、何、俺が気合い入っちゃダメな訳?」
「……」

まあ、気合いが入って悪いことはない。俺だってまゆこがいないところでひっそりと負けるのはごめんだ。…いや、まゆこに見られてるところで負けんのも嫌だけど。










「やっぱりまだ試合終わってねーな」
「な」

バスケが終わり、俺はドリンクを買いに行ってから、牧野と2人バドミントンの会場にやってきていた。試合開始まではまだ少し時間がある。風間達は、男子がぞろぞろ来たらまゆこがビビるだろうからと、午後からのフットサルに向けて昼飯を先に食べてもらうことにした。
予定では後20分くらいでバドミントン、午後からはフットサルもあるし…なんか俺、すげえ、多忙。

バドミントンの会場を見渡すと、今野サン達が固まって話しているのが見えた。でもその中に、まゆこの姿が無い。

「あ、2Aあそこじゃね?」
「あー、だな」
「…行かねーの?」
「……」



「あ、牧野じゃん!」
「……おおお!」

声を掛けてきたのは、どうやら牧野の友達らしかった。隣りで牧野が友達と話してる最中も、体育館を見渡す。……やっぱり、いねえ。

「俺らはさっき男バス勝ってベスト4で、んでこれからバドとフットサルの準々決勝…あ、あと女バレもさっきあって…」
「牧野」
「ん?」
「俺、少しその辺ぶらついてくるわ」
「ええ、今からぶらついてくんの?」
「……ちょっと探し物」

「探し物?」、そう言って首を傾げる牧野に頷いて、俺は体育館を後にする。今野サン達まゆこがいつも居るメンバーは、全員いたよな。……ってことは、トイレ?

そう思った俺は、さっき牧野と歩いてきた道を戻ることにした。トイレはバスケの会場のすぐ近く。試合がまだまだだとはいえ、飲み物買うとかだったら普通友達と行くよな。…ウン、やっぱりトイレくらいしか思い付かねえ。


「……あ、いた」


案の定、見覚えのある後ろ姿を見つけた。ただし、まゆこが立っていたのは、バスケの会場の入り口だった。
誰かと話しているように見える。でも俺らも試合終わってるし、女バスも昨日負けてるし。誰か他の友達とか?あーまあ、それなら…。

そんなありきたりなことを考えた直後、俺の目に入ったもの。
俺は、忘れていた。バスケの会場には、審判と点数係として、現バスケの部員達がわんさかいるのだ。そしてその中には、もちろん…。


「まゆこ」
「…あ、あれ?ブン太?」


「なんだ、もうバドの方に行ってたの?」。俺を見て驚いた表情のまゆこと一緒にいたのは、さっきまで俺の試合の審判をしていた、進藤だった。

「ちょい前に終わって牧野と行ってた」
「ああ、そうだったんだ」
「ん」


…んだよ。こっちまでわざわざ進藤に会いに来たの?


「じゃあ俺、審判あるから戻るね」
「あ、うん!進藤くん、教えてくれてありがとうございましたっ」
「ううん。…あ、丸井くん」
「あ?」
「決勝で俺笛吹く予定だから、楽しみにしてるよ」
「……どーも」

そう言って頭だけを軽く下げる。我ながら、態度が悪い。でもこのイラつきを隠せる程、俺には余裕が無かった。
俺と朝一緒に行きたいって言ったの、まゆこじゃん。それなのに自分の試合前に時間見つけて、進藤のとこに来たってこと?それなら黙って朝も進藤と……あー、わっかんねえ!

後ろへ振り返った進藤を見て、即座にまゆこは俺の方を向く。

「……」
「……」
「…なんだよ」
「ブン太、機嫌悪い?」
「……」


機嫌悪いか聞かれて『はいそうです俺は機嫌悪いです』なんて答えるやつ、いる?


「…うん」


まあ、俺は答えるけど。


「…な、なんで?」
「……」
「あ、ちょっと!」

俺の機嫌を伺うように上目遣いで聞いてくるまゆこを置いて、俺は歩き始めた。
…なんでかって?そんなの、お前が進藤と話してたからだよ。選手としての俺は見に来ないくせに、審判の進藤と話しに行くからだよ。好きな女が他の男と話してて、にこにこしてる奴なんかいるかよ。

「ブン太、やっぱり怒ってるの?」
「うん」
「…どうして、怒ってるの?」
「……」


隣りを歩くまゆこが、めげずに聞いてくる。


「…どうして怒ってるかは言えないけど、怒ってるの?」
「……うん」


その通り。まさに、それ。その意味を込めて、まゆこの目を見て頷く。マジでガキ臭え。そう、自分でも思う。でも仕方ねえじゃん。嫌なもんは、嫌なんだし。

「……あの、それって、さ」
「ん」
「私が進藤くんと話してた…から?」
「……」

……は?そう、喉から出そうになった驚嘆の声を、グッと堪える。でも思わず、まゆこの方へ振り返った。


「……な、なんてね!ごめん、冗談で言ってみただけだから気にしないで!」


俺と目が合って、不安そうに俺を見つめていたまゆこは、頬を少し赤らめ、苦笑いでそれを否定をして。


「…あ、えと…男バス勝ったんだってね!」

「まだ試合してるかなと思ってこっそり見に行ってたらね、偶然進藤くんがいて、2Aは勝ったよって教えてくれたの」

「これで去年と同じベスト4だよね!おめでとう!」


でもそれからすぐに、いつもの笑顔のまゆこに戻った。……戻った、けど。

俺は立ち止まって、まゆこの手を掴む。


「……」
「……」


いきなり手を掴まれたまゆこは、不思議そうに俺を見る。


「…そうだって言ったら、どうする?」
「え?」
「まゆこが進藤と話してたから俺が怒ってたら、どうすんの?」


なんでまゆこがあんなことを聞いたのか、俺にはわからなかった。


「……」
「……」
「そ、それは…」

そう言いながら困ったように目を逸らすまゆこの顔が、みるみるうちに赤くなっていく。目は泳いでるし、口元はわなわなと震えてる。

こんなまゆこは、見た時が無かった。


「……しっ、知らない!」
「ちょっ」


最後の最後に目を瞑ってそう叫んだまゆこは、自分の手をぐいっと引っ張って。そして俺の手が離れた瞬間、弾けたように、バドミントンの会場へと走っていってしまった。



「……は?」


バックンバックン。1人残され、走っていくまゆこの背中を見る俺の心臓が、めちゃくちゃ煩い。

いやいや、だからそれ、どういう意味?知らないって、どういうことだよ?……わかんねえ。まゆこは俺の気持ち、気づいてんの?気づいてて俺に聞いたのかよ?

進藤と話してた理由も、初めて見た赤く染まった頬も、全部期待すんだよ。好きだから、期待、したくなるんだよ。

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