私には、幼馴染がいる。
「おはよ」
「はよー」
真っ赤な髪でいつもガムを噛んでいる、幼馴染である丸井ブン太とは、毎日一緒に学校に通っている。快晴の日も雨の日も、あまり無いけど雪の降る日も。「寝坊したから先に行ってて」、私がそう言ってもブン太は待ってるし、「腹いてーから先に行ってて」、ブン太がそう言っても私も待ってる。待ってるのがわかるから、遅れちゃってもいーかとか休んじゃおっかなとか、思わない。思えない。何年も続く私達の暗黙の了解というやつだ。
「ふあ」
「わーおっきい欠伸」
「うるへー」
悪態をつきながらもう1回大きな欠伸。涙目を拭いながら歩くブン太は、どうせ昨日もゲームをして夜更かしでもしたんだろう。私もゲームはするけど、わざわざ夜更かしまではしないしその前には大体寝てしまう。これはきっとまだまだ成長する証なんだと私は信じている。
いつものようにたわいない話をして、学校に着いた。例年ならここで別れて各々が教室に向かっていたのだが、今年は違った。ブン太とそのまま一緒に2Aの靴箱へ向かい、お互いの靴を履いて、どちらともなく待って、2人並んだら一緒に教室へ向かう。でも、私は正直いってここからの時間はあまり好きではなかった。
「ブン太おはよー!」
「おはよー」
「丸井おーす」
「うーす」
ブン太は友達が多い。朝、教室に向かうだけで色んな人から声を掛けられる。それに1人1人返事をしてるんだかしてないんだかわからないけど、私、隣り歩く意味あるかなぁ。ブン太が友達が多いのは知っていた。でも今までは教室に向かうブン太と隣りを歩くことが無かったから、まさかここまでとはと初日は驚いた。「ブン太、友達多すぎない?」、思わずそう言ってしまった時は、ブン太が戸惑っていたのを覚えている。
「まゆこおはよ!」
「おはよう!」
もちろん私にだって友達はいる。ただ男女共に仲がいいブン太に比べて、私は女の子にしか友達がいない。話しかけられれば答えるけど、男子に私から話しかけるなんて、用がない限り無い。用があっても男子と仲がいい友達に頼んだりとか、とにかく私は男子と話すのが苦手だ。別に何があったとかそういうのではないけれど、何となく苦手。だから、女の子からしか声をかけられない私は、玄関から教室に向かうほとんどの時間を無言で過ごすことになってしまう。
そして、それよりも何よりも私が嫌な理由。「あの子だれ?」。……ほーら、今日もまた。
広い広い立海大附属高校の学校内で、私とブン太の関係を知らない人は沢山いて。今年になってこうやって毎朝ブン太の隣りを歩いている私を見て、みんなこうやって噂をしているのだ。人気者のブン太の隣りを歩くあの女は誰だ、と。
「……」
私だって、こんな気持ちになるなら歩きたくない。でも私からブン太から離れられる訳なくて。どうしたらいいんだろうなぁ。
「まゆこー!」
「はいよー!」
…とはいえ、教室に入ると友達から掛けられた声に、すぐに私は悩みを忘れてしまうのだけれど。