まだ薄暗い部屋の中、うっすらと目を開ける。…今、何時だろう。まあでも、この位の暗さならまだ起きるような時間じゃないよね…。
ピピピー!そう考えて再び眠ろうとする私の耳に、いつものアラーム音が鳴り響いた。う、う、うるさい!なんで私、こんな時間にアラームかけたの!


「……」


枕の右側へと手を伸ばし、携帯のありそうなところで手を動かす。早くしないと、眠れなくなっちゃうよう!指先に当たった感触で携帯だとわかったそれを掴みボタンを押すと、アラームが止んだ。
迫り来るアラーム音から解放され、ほっと一息。でも一体、なんでこんな時間に…。ぼんやりと考えながら昨日の夜のことを思い出す。電気を消して、ベッドに入って、それで…。


『5分前だと早すぎて寝ちゃうかもしれないし、ぴったりだと起きれなかったら困るしね』


…ああ!そうだった!がばっと起き上がった私は、急いで時計を確認する。時計は5時45分を指していた。やばいやばい!もう時間だ!
私は急いで携帯を付けて電話帳を開く。ブン太とは滅多に電話なんてしないから、履歴となると結構遡ることになるのだ。ま行から探し出したブン太の番号に慌てて電話をかける。

プルル…。規則正しいコール音が聞こえてきて、起き上がった衝撃でばくばくと鳴っていた心臓が落ち着いてくる。そしてそれと共に湧いてくる眠気。ブン太…早く出てよ……。プッ。突然音が止んで、私は息を吸う。


「…どした、まゆこ」


電話の向こうから聞こえて来たのは、まさに寝起きのブン太の声だった。でもその声はかすれていて、普段のブン太からは想像出来ないような、私が一度だって聞いたことの無い声で。私はそれに驚いてなのか、なんなのか、頭の中にあった言葉が吹き飛んでしまった。

「……」
「……」
「あ、あの、ブン太」
「ん…?」
「その、えっと…起きた?」

どうしてだろう。寝起きの頭を一生懸命回して考えて話す私だけど、収まっていたはずのどきどきが再び…ううん、さっきとはなんだか違うどきどきで胸の音が煩い。
でもだって、あんな声聞いたことないもん。小さい頃のブン太って、どうだったっけ?ぼんやりと考えても、出てくるのはさっき聞いた声で。

「え?」
「あの、だから、今日から朝練って言ってたでしょ?」
「……うお!」
「わぁっ」

「悪い!サンキューまゆこ!」。そう言って、私の返事を待つことなくブン太は電話を切った。

ツーツー。ブン太が完全に目覚めた大きな声に驚いて、さっきとは比べ物にならない程に心臓が煩くて。それでもまだ起きるには早いからとまたベッドに横になる。だけど、どれだけ目を瞑っても、ブン太の声が耳から離れなかった。









「…ふあぁ」


結局あの後一睡も出来ず、校門をくぐりながら欠伸を1つ。ううーん、こりゃどこかで寝るしか無いな。


「まゆこ!」
「あ、光おはよー」


そんな私に声を掛けてきたのは、この間一緒にバスケの試合を見に行ってくれた光だった。

「おはよ、今日1人なの?」
「うん、ブン太今日から朝練なんだって」
「おおーやっぱり2年でも試合に出てる子は違うねぇ」
「でもインハイは出れないかもって言ってたけど」
「まあ3年生メインだろうしね?」
「そんなもんなのかなー」

光とは同じクラスだった1年生の最後の方に急に仲良くなり、今に至る。2年生になってクラスが分かれてもこうして話しかけてくれるし、休みの日だって遊びに行く。


「かく言う進藤くんも、3年生の勢いに負けそうらしいよ?」
「え、そうなの?」


実力主義である我が立海大附属高校。1年生だろうと2年生だろうと、上手い人、強い人が試合に出るのがどの部活でも通例で。でもインターハイは、出来ることなら3年生を出したいっていうのもあるのかなぁ。


「ま、最後だと思うとがむしゃらになるってこともあるんじゃない?」
「ああ、なるほど」


ブン太も進藤くんも、試合に出られないのは残念だよね。でも3年生の最後だと言われれば、確かにやる気が漲るってのもあるかもしれないし…。ううむ、監督って大変そう。

「ふあぁ」
「まゆこ眠そうー」
「うん」

いつもより早く学校に来たし、教室に着いたらすぐ寝ようか。でも友達がいたら、結局話しちゃうよねぇ。


「なんか、ブン太が朝練で起きれないから起こしてくれって頼まれて」


滲み出る涙を拭きながら、光の方を向く。どうしたって眠い。これはきっと、友達と話して無くなった眠気が授業開始と共に訪れてしまうやつだ。1番質の悪いタイプの眠気さんだ。

「でもそれから眠れなくてさ」
「……」
「……」
「まゆこ、ってさ」
「んー?」

「丸井くんのこと、好きなの?」

「……へ!?」

光の思わぬ言葉に、目を見開いて大きな声が出てしまった。

「な、何故そうなる!」
「だってモーニングコールとか、もう彼女じゃん?」
「いやいや違う違う、私と!ブン太は!幼馴染!」
「それはわかってるけどさぁ」
「でしょ?…じゃあはい、この話は終了!」
「やだやだ終わらない!」

にこにこというかにやにやというか、まぁそんな感じの顔の光は話を終わろうとする私の声を遮る。

「でもモーニングコールなんて、丸井くんのファンの1年生が頼まれたら発狂して眠れないよ?」
「そりゃそうかもしれないけど」
「ってか、モーニングコールって普通彼女か好きな子にしか頼まないと思いまーす」
「すっ…!?」

なんだ!今日の光はなんなんだ!私の反応を見てけらけらと笑っているところを見ると、本気なのか私を動揺させるためなのかわからない。

「や、やめてよもう!光のあほ!」
「なんでよう、私はただ一般的な話をしただけだよ」
「だからってさ!」
「まぁでも、まゆこと丸井くんは幼馴染だし、一般的な例とは違うかもしれないけどね?」
「……」

そうだ。そうに決まってる。私とブン太は、幼馴染なんだもん。昔からずーっと一緒の、幼馴染。そうじゃなきゃ、ブン太は私の隣になんて居ないんだから。

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