長かった1日練が終わり、先輩よりも先に一番に部室へやってきた俺は光の速さで着替えてカバンに服をぶち込む。あー喉乾いた。まあ駅で適当になんか買えばいっか。そんな事を考えながらカバンのチャックを閉めれば、思いのほかカバンはパンパンで。たぶん色々と考えて入れればこんなことにはならないんだろう。いつもよりも少しころころしたカバンを肩にかけて、俺は部室を出た。






身体が比較的強い方のまゆこは、1週間も学校を休むなんてことは今まで1度しか無かった。それも小学生のときのおたふく風邪。そのときはそのときで、移るからだめだとまゆこの母ちゃんに言われた記憶がある。でも夏休みも冬休みも何だかんだ2、3日に1回は会っていたし、俺もまゆこも風邪を引いてもすぐに治る。だから、こんなに長い間まゆこに会わないのは本当に久しぶりだった。

電車を降りて、いつもだったらどっかでお菓子買おうかとか思うんだけど、今日は違う。真っ直ぐに家へ向かう俺の足取りはめちゃくちゃ軽い。県大会に向けて鬼のような練習メニューに、神田さんも昨日から復活したから俺はまた補欠に回ってしまった。全く世の中良いことばかりじゃねえ。でも、今日の俺は気分がいい。



「ただいまー」


靴を脱いで家に上がり、いつものようにカバンに詰まった練習着やらタオルやらを洗濯の籠にぽい。ついでに靴下もぽい。それからリビングに入れば、大きいテレビをこれみよがしに使い弟2人がゲームをしていた。

「あ、兄ちゃんおかえり」
「おかえりぃ」
「おー」



「ねー兄ちゃん、それ食っていいの?」

結局駅でも何も買わなかった俺は、冷蔵庫を開けてオレンジジュースを取り出す。それを見た上の弟は、俺の方を向いて声を上げた。


「ああ、こっちは好きなだけ食っていいよ」
「まじぃ!よっしゃ!」


そう答えてから、コップに入れたオレンジジュースを一気飲み。くっはー!酸っぺえ!でも美味え!俺はそのままもう一杯一気飲みしてから、残ったオレンジジュースを戻すついでに冷蔵庫から例のものを取り出した。……隣りだし、別にどうでもいいよな。

「あ、そうそう俺、今日まゆこちゃんに会ったよ」
「ふーん、やっぱ元気だった?」
「うん。インフルだと痩せる人痩せるらしいけど、私全然痩せれなかったってむしろ悔やんでた」
「ふん、だろうな」

適当に皿に乗せてラップして、準備完了。「母ちゃんの分も残せよ」、そう声を掛けた俺は、弟達には冷蔵庫から出したもう一方とフォークを2つテーブルに置いてリビングを出た。

玄関にものを置き、一旦脱衣所へと向かう。そしてタンスから新しい靴下を取り出しながら、ふと思った。…俺、汗臭くね?
部室ではいつも通りに制汗剤を使ってきた。それでもどこか不安になって、ワイシャツの腕の辺りに鼻を近づけて嗅いでみる。くんくん。…うん、別に臭くねえな。
……って待て待て!どうした俺!今までまゆこんち行くだけでこんなん気にしたことねーだろい!

我に返った俺は、心の中で思いっきり自分に突っ込みながら靴下を履く。いやいや、なんでそんなこと気にしてんだよまじで。まゆこに言ったらすげー笑われそう。「ブン太うける!今更どうしたの!」って。

でもこれってたぶん普通のことだよな。仁王ですら彼女と会う前には髪の毛とか気にしてるし。あ、でもネクタイは直して欲しいから、わざと緩めておく時もあるって言ってたっけ。


「…あいつもあほだよな」


そんなあほな仁王を思い出したついでに、俺もなんとなく洗面台の鏡を見てみる。けど今更俺が髪をどうしたとか服をどうしたとか、そういう事でまゆこの中で何か変わったりすんのかな。例えば、前髪アシメにするとか?前髪を纏めて、横に流してみる。…まあ確かに、無くはない。でも俺っぽくねえよなあ。じゃあ思い切って前髪短くしてあげてみるとか。……これはちょんまげしてんのと変わんないって言われそう。


「…やべっ、玄関に置きっぱなしだった!」


手で一纏めにして上にあげていた前髪を下ろし、首を振って軽く整える。脱衣所を出て玄関に向かった俺は、さっきまで履いていたローファーに再び足を入れた。

玄関を出てすぐ左にある、まゆこんちのインターホンを押す。「はーい」。そう遠くから声が聞こえて、俺は手に持っているものを後ろに隠した。


「入っていいよー」


ガチャりと鍵が開く音がして、今度はすぐそこで聞こえたまゆこの声。俺はドアを引いて顔を出す。


「ブン太久しぶり!っても1週間ぶりだけど」
「ん、1週間ぶり」


玄関に立っていたまゆこは、当たり前だけど1週間前と何ひとつ変わっていなかった。そしてやっぱり、普通に元気だった。

「どうしたの、上がらないの?」
「上がる上がる。まぁでもとりあえずまゆこは先行ってろい」
「えー?どういうこと?」
「いーから」

頭にクエスチョンマークを浮かべながら、まゆこは先にリビングへ向かい始める。でも俺はまだ玄関に入らない。「ちょっと、本当に何よう!」。……あいつはこうやって、途中で振り返るから。


「すぐ行くっつーの」


結局同じようなことを言われて、渋々リビングへと入っていくまゆこ。ドアが完全に閉まったのを確認して、俺は玄関に入る。コトン。皿を置く音もなるべく立てないようにして。

さすがに昨日の事だから憶えてるよな。でも昼だったからなぁ、まゆこのことだし昼寝して忘れたかも。…ま、どっちでもいいか。怒られる前にさっさと行こ。

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