ついにやってきた土曜日。…とはいえ、既にもう正午を回っている。スポーツの盛んな立海はテニス部もそうなのだけれど、どうやらバスケ部もシードを獲得しているらしく、初日は午後からの試合開始だと進藤くんから聞いていた。


「よし、行きますか!」


昨日の夜買い込んだお菓子をスクールバッグに詰め、靴を履いて立ち上がる。学校の休みの日に制服で出掛けるなんて応援くらいで、それすらもあんまり行った時がないからなんだか違和感があって。ずきんっ。……はぁ、まただ。昨日、ブン太と一緒に帰ってきてからご飯を食べてすぐに寝てしまい、寝過ぎなせいなのか朝から少し頭が痛い。薬はさっき飲んだから、早く治るといいんだけど。







電車とバスを乗り継いで、到着したバスケ部の試合会場の体育館。友達の光里とは駅で待ち合わせをしていたから、迷うこと無く到着出来た。バスの途中でテニスコートがあり、立海テニス部は今日はそこで試合があるって仁王くんの彼女ちゃんが言っていたらしい。



「うわあ、すごい人!」
「ね、私も初めてきた時びっくりしたもん」


会場に入ると、溢れんばかりの人、人、人。そしてものすごい熱気だ。外も暑かったけれど、ここだって負けてない。「ワァー!」、突然の盛り上がりを見せた会場内に、思わずびくついてしまって光里に笑われた。

近づいてコートの中を見ると、三面コート全てで試合が行われていた。


「あ、あそこあそこ!」
「えー?」


光の指さす先には、立海の男子バスケ部が真ん中のコートの壁に沿って立っていた。どうやら真ん中のコートで次に立海が試合をするらしく、今やっている試合の中休みの15分間に少し練習をするのだと光里は教えてくれた。
さすがにコートのすぐ上の席は満席になっていて、それでもなるべく近くの空いてる席を見つけて光里と座る。ピィー!前半終了の笛が鳴り、下がっていく選手達。そして入ってくる立海の部員。その中で、普段の学生服姿とは違う格好の進藤くんを見つけた。

「まゆこ、進藤くん見つけた?」
「う、うん見つけたっ」
「どうどう?すごいかっこよくない?」
「う……まあ」
「おおっ、さすがのまゆこもついにやられたかー?」

何とも楽しそうな光里に「そういう意味じゃないよ!」と反論する。でもそんな私の声なんていとも簡単に流し、光里は音の鳴った携帯を確認していて。諦めた私が再びコートの中に目を移すと、選手の皆さんはシュート練習をしていた。ボールを拾って、ある程度下がって、シュートを打つ。皆同じことをしているのに、なんでか進藤くんを目で追ってしまう。他の選手を見ていても、すぐに戻ってしまって。
どうして、そうなってしまうのか。……それはきっと、進藤くんがいつもよりもすごくきらきらしているからだ。普段からきらきらしている進藤くんは、バスケの格好でボールを持っているだけでもきらきら度が増してしまってる。こんな私でも思っちゃうよ、進藤くんがかっこいいって。このきらきらに女の子は吸い寄せられてしまうんだね。



「…あれ」
「……」
「ねえまゆこ、丸井くん試合出てるみたいだよ?」
「…ええっ!?」

携帯を見ていた光里の予想外の言葉に、思わず大きな声で反応してしまった。そしてすぐに自分の携帯を確認。でも、なんの連絡も来ていなかった。

「え、仁王くんの彼女ちゃんから?」
「うん。なんか仁王くんとダブルスで出てるって、ほら」
「……」

光里が見せてくれた携帯の画面には、確かに仁王くんとブン太がダブルスで出ていることを伝える言葉が書いてある。…何故、連絡が来ていない。今日に限って直前にわかるなんてことは無いはずだ。朝一で開会式に出てから今まで試合は無いから怪我したってのも有り得ないし、体調を崩した人がいたとしてもそれは朝からわかってるはずだし。

でも、実際に私にはブン太からの連絡が無かった。それは変わりようのない事実だった。


「もー!ブン太、試合出るなら言ってって昨日話したのに」


ここにいないブン太に文句を付けて、私は唇を前に突き出す。…だってさ、出るの絶対わかってるじゃんか!こんな時間まで携帯触れない訳、無いじゃんか!……はーあ、ブン太、私に見に来られるのが嫌になったのかな。この前まであんなに何回も出れるか聞いたの、実はめちゃくちゃうざがられてたりして。そうだったら悲しいなあ…っでも、ブン太の試合見たかったんだもん!別に見るくらいいいじゃないか!ブン太のけちんぼ!
そう心の中で悪態をついても、私の本当の気持ちがむずむずと痒くなってくるのがわかる。だって、見たいんだもん。ブン太が試合してるところ。


「……光里!次の立海の試合まで時間ある?」
「え、うん。あるけど」


携帯の時間を確認する。光里に聞くと、この練習の後また後半の20分間の試合があり、それから片付けやら何やらの後に立海の試合があるらしい。簡単に見積もっても40分くらいは時間はありそうだった。

「…まゆこ?」
「……光里、ごめん!私ブン太の試合見に行ってくる!」
「えっ、今から?」
「うん!でも試合にはちゃんと間に合わせるから!」

そうと決まれば!と、私はカバンを肩に掛けて立ち上がる。コートを見ると、立海の皆さんはまだ練習をしていた。ごめんなさい、進藤くん。でも絶対、試合には間に合わせます!心の中で小さく頭を下げて、私は階段を駆け上がった。

体育館を出て、すぐにタクシーを捕まえて乗り込む。バスでも行けるだろうけど、むしろ頑張れば歩いたって行けそうだけど、でもなんと言っても今の私には時間が無い。間に合わないなんてなったら、誘ってくれた進藤くんに申し訳がないもん。乗ってからテニスコートの名前を伝えると、運転手さんはすぐに出発した。



タクシーに乗ってから、10分ほどで会場に着いた。タクシーに乗っている間に、光里がコートの場所を聞いていてくれて。どうやら入り口から1番奥のコートで試合をしているとのことだった。
タクシーを降りて私は一直線に1番奥を目指して走る。うう、頭が痛い…。走る振動でなのか、酸素が足りなくなったからなのか。朝の頭痛がまたぶり返してきた。でも、そんなことは気にしていられなかった。ブン太の試合が終わっちゃう!


「はあ、はぁ…」


走っているとフェンスを囲むカラシ色のジャージが見えてきて、私は走る速度を弱める。はぁ、ほんと疲れた…。心臓がどくんどくんと音を立てているのがわかる。歩いて近づいていくと、どうやら今立海側のコートには、相手校の選手達がいるみたいだった。


「すみません、ごめんなさいっ」


そう声を掛けながら、コート内にいる相手のダブルスの選手の、真裏に来る位置に私は身体を入れる。フェンスに手を当てて顔を上げると、どこにいたってわかる真っ赤な髪が、コートの向こうにいた。

ブン太は丁度、サーブをするところだった。ぽんぽんといつものようにボールをついて、こちらを見据える。すごい…ブン太、試合出てるじゃん!出れなくないじゃん!私は嬉しくて、そして久しぶりに見るブン太の試合にわくわくして、つい先ほどまでのブン太への怒りなんて無くなっていた。


……あれ、サーブ、しない?

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