「……」

あたしの前に立っているのはテニスボールが詰まりに詰まった箱2つ。オサムちゃんに昼休み呼び出されると、職員室前の箱持って行ってと一言言われた。まあ、百歩譲って箱はいいよ?だってマネージャーだもんねあたし。でもさ、いくら何でも2つは無理でしょ。…え、何これ罰ゲーム?

「なんや困っとるみたいやなあ、天子」
「…先生のせいですけど!」

後ろから話しかけられ、振り返って反論を言う。はははと軽く笑ったオサムちゃんのことを一発ぶっ飛ばしてやろうなんては思わないけど、さすがに軽く恨んだ。次の授業なんだっけ。オサムちゃんの授業だったらこの荷物ゆっくり運ぼう。そんで授業遅れましたって言おう。

あたしがそんなことを考えていると突然オサムちゃんが、お!と声を上げた。

「白石こっちやでえ」
「…?」
「何…あれ、天子?」
「蔵も先生に呼ばれたの?」
「せやで、今さっきな」
「さ、白石も来たことやし2人でこのボール達を部室まで頼むわ!」

にこにこ笑ってオサムちゃんが言った。え、蔵が呼ばれた理由ってこれ?

「何、これ運べって呼び出したん?」
「おん」
「いいよそんな!あたしの仕事だし!」
「…天子の仕事?」
「せやねん。マネージャーやし天子に頼もう思たんやけど、よくよく考えたら1人やと無理か思てなあ」
「いやいや大丈夫!1つ1つ持ってって次の授業遅れるから!」
「…お前それ俺の授業やで」
「だから遅れるの!」
「なんやと?」
「あーはいはい。俺が持って行けばええやろ?天子も授業に遅れないし、めんどくさないし」
「……でも」

マネージャーの仕事を部長にさせるわけにはいかないよ。
あたしがそう言うと、蔵はアホと言って1つ箱を持った。

「さすが白石!俺の授業のためにわざわざ」
「ごめんそれちゃうから。むしろ女の子がこれ2つなんて無理に決まっとるやろ?」
「…ゴメンナサイ」
「あの、…ありがとう!」
「んーん。ええよ」

そう言って笑ってくれた蔵がかっこよくて胸がギュッと締め付けられたみたいな感覚になる。こんなの普通嫌じゃん。何で部長が、1年生に頼めばって思うじゃんか。それなのにさ、蔵は優しいんだよね。かっこいいだけじゃなくて優しいなんて。…もう、本当に好きだなあ。

「じゃあ行ってらっしゃい!」
「おー」
「はーい」
「イチャイチャして授業遅れんようになー」
「なっ」「ちょっ」

何言ってんのオサムちゃん!信じらんない!あたしの気持ち知っててそういうこと言うなんて!とりあえず周りを見ても誰もいなかったから安心した…けど!でもそれでもありえない!この気まずさどうするのー!

「…あの、なんかいろいろとごめんね」
「いや別に俺は…」
「……」
「……」

ほら、やっぱり気まずい。でも蔵もどうせイチャイチャするなら、もっと可愛い子がよかったよね。きっと。

「なあ」
「うん?」
「天子ってさ」
「うん」
「……」
「……」

そこまで言ったきり前を向いて黙ってしまった蔵。何だろう?さっきのドキドキが収まらないまま次の言葉を蔵の顔を見て待つあたし。
するといきなり蔵がこっちを向いた。おわあ!心臓飛び出るかと思った!そんな思いをなんとか口に出さず、蔵と目を合わせる。

「…やっぱ何でもない!」
「えー!嘘!」
「今やなくてもええから止めとくわ」
「あたしは今がいい!」
「えー」
「だって」

すごいドキドキしたんだもん。よくわかんないけど。まさかそんなことを蔵に言えるはずもなく、あたしは蔵と同じように黙った。

「…じゃ、お互い黙ったっちゅーことでこの話終わり!」
「…はーい」



この気持ち、いつかは言えるかな?

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