「具合はええ?」
「…だいぶ」
「次は授業出れそう?」
「…たぶん」

よかった。ほんなら次から出てね。
先生は安心したようにそう言った。授業なんて出たくなくてあやふやに返事をしてみたけど、先生には効果なかったらしい。でも実際に腹痛は治ってたし、まあしょうがないか。

「じゃあ、名簿に退出時間書いていってね」
「はーい」

先生が行って、あたしは身体を起こした。うん、よく寝た。

ズックを履いてカーテンを開ける。先生のところに行こうとして歩き出すと、隣のカーテンが勢いよく開けられた。

「天子!」
「く、蔵?」

カーテンの先に立っていたのはなんと蔵だった。嘘、え、何で蔵?

「もう腹は大丈夫なん?」
「あ、まあ…」
「ほんまか?お前痛くても全然言わんから」
「ほ、ほんまだよほんま!それより蔵こそどうしたの、具合悪かった?」
「おん、頭痛くてなあ」
「そっか…次出れる?」
「んー、まだちょっと痛いから寝とくわ」
「わかった。…でもよくあたしが隣りってわかったね」
「名簿に名前書いとったから、寝る前先生に聞いてたんや」
「…ああ!」

蔵の言葉を聞いて安心した。もし顔見て確認したとかだったら寝顔見られてってことだし…。まあ、そんなこと蔵はしないと思うけどさ。

「天子おらんなーとは思っとったけど、まさか腹痛で保健室いるとは思わんかったで」
「はは、ごめんごめん」
「部活には出れそうか?」
「大丈夫!簡単に休んでらんないもん」
「それならよかったわ」

そう蔵は笑ったけど、蔵が授業休むなんて珍しいから、結構辛いんじゃないかなあ。…熱とかありそう。

「蔵、熱とかなかった?」
「…さっきは微熱やったけど」
「え!熱あるの?」
「や、ほんまにちょっとやで」
「でもあるんじゃん!」

蔵がいない部活なんて、檻のない動物園のようなものだ。考えただけで憂うつになってきた。誰があの自由人達をまとめるの…!

「んー、そんなん言われてもなあ…」
「…えちょ、」

えええええ!あたしのおでこに蔵の手が!手が!バックンバックンと心臓が鳴っている。むしろあたしの熱が上がっちゃうんじゃないか、これじゃあ!
不意にあたしのおでこにあった右手が離れていって、蔵自身のおでこに触れた。

「…なんや天子と同じような感じやな」
「……」
「天子?」
「…あ、そ、そっか!なら大丈夫だよきっと!絶対!」
「お、おお」

じゃああたし教室戻るね!お大事に!そう無理矢理話をつけてドアに向かう。…どうしよう、蔵、変に思ったかな。バックンバックン。でも、こんな顔みられるのは絶対にごめんだ。

「天子ちゃん名簿書いていって?」
「…あ、はい」

思わずそのまま出て行こうとしたのを先生に止められた。

「んーと、今は…」
「ねえ、白石くんと何かあったん?」
「っうえ?」

11:36と書こうとした手が、先生の言葉に思わず止まる。先生は何も言わずにこにこ。

「えっと…」
「あ、そういえば白石くんが天子ちゃんの寝顔見ようとしてたから一応止めといたけどよかった?」
「…はい?」
「んふふ」
「え、どういう、」

キーンコーンカーンコーン。授業の始まりを告げるチャイムが鳴った。何、蔵があたしの寝顔見ようとしてた?え?

「…あ、あの!後で詳しく聞きにきます!」
「はいはーい」

先生の返事を背に、廊下を走り出す。

嘘に決まってるじゃん!蔵があたしの寝顔なんて見ようとするわけない!先生がたまたま間違えてそう思っただけに決まってるじゃんか!絶対ないない!期待するなあたし!






「あれ、先生天子来とるん?」
「そうよー」
「へえ、どこに寝とんの?」
「手前から2番目やけど」
「……」
「あ、寝顔とか覗いたらあかんよ?」
「えっ」
「ふふ、図星やない?」
「……」
「あのねえ、女の子の寝顔は簡単に見たらあかんの。見るんやったら、――」





ドキドキなんてしないでよ…!

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