二次方程式がうんぬん、だからXの値はこうなるんだと先生が話している。その言葉が耳を通り抜けるのは、あたしが授業に集中してないからだ。

「ほな問い8やって、…あー9もやな。時間もあれやから黒板にやって貰うのは明日にするわ」

先生はカタンとチョークを置いた。明日…明日ってあたしの番じゃん!問題を見てみると8はかろうじてわかった。でも9は応用問題なのか、先生の説明を全く聞いてなかったあたしにはさっぱりわからない。
こんなとき頼りになるのは隣の人。左は謙也だからきっと無理だろうと思いつつも一応見てみると、謙也は机に突っ伏して寝ていた。

「……く、蔵」

あたしは右の方を見て思い切って声をかける。さらさらと軽快に問題を解いていた手が止まり、呼ばれた本人はこっちを向いた。

「ん?」
「問9教えて欲しいな〜なんて…」
「…ああ、別にええよ」
「ありがとう…!」
「でもまだ解いてる途中やから、それ終わってからでもええ?」
「うんもちろん!あたしこそ邪魔しちゃってごめんね」

あたしの言葉に気にせんでと言ってくれた蔵は、再び問題とにらめっこし始めた。たぶん今の蔵の頭ではあたしには想像できないくらいの数式が飛び交ってるんだろうなあ。

「おし、出来たで」
「あ、本当?じゃああたしそっちの方行くね」
「んー…」

いや、俺が行くわ。蔵はそう言うと椅子を引っ張ってあたしの机まで来てくれた。

「え、何で?」
「やって解く方が机ちゃんと使た方がええやろ」
「まあそうだけど…」
「それで、どこがわからんの?」
「問9!」
「の何番?」
「いやだから問9」
「の全部かいな」
「の全部です」
「……」
「……」
「…ほんまっぽいししゃーないわ。最初っからちゃんとやってくで」

蔵の右手があたしのノートに伸びてくる。…なんか緊張してきた。

「せやなあ、一からわからんの?」
「た、ぶん」
「自分のことやのにたぶんてどういうことやねん」
「じゃあ絶対!」
「じゃあって…」

蔵はまたしゃーないなあと言って自分の席からシャーペンを取る。カチカチ。何回か押して芯が出てきたのを確認する。

「1番の問題からでええやんな?」
「あ、うん」
「ほんなら最初は同じやから出来るとこまででええからやってみ」

そう言われたあたしは問題と向かい合う。最初のところは同じって言ってたよね。

「……」
「…?」

…まずい。完璧に飛んだ。さっきまでは解けていたところなのに、頭が真っ白で何も思い浮かばない。それはきっと蔵と一対一というシチュエーションのせい。自分で作っといて我ながらアホだと思う。

「天子?」
「けけ謙也!」

あたしは思わず隣で寝ている謙也に助けを求めた。謙也は、ん…と眠そうな声を出してあたしの方を見る。

「何やねん天子」
「あ、や、そういえば謙也も明日当たらなかったっけって思って…」
「……おあああ!当たるやん!やばい何も聞いとらんかっ…あれ、白石と天子やけに近ない?」
「それは今蔵に教えてもらってるからなんだけど、謙也も一緒に教えてもらわない?」
「白石に?」
「うん」
「…今回は自らの力で頑張ってみるわ」
「何それ!ちょっと謙也!」

謙也はこっちに向けていた顔をノートに向けた。あたしも仕方なくまたノートに顔を向ける。

「なあ、」
「な、何?」
「……いや、何でもないわ」
「…?うん、わかった」



蔵の教え方、わかりやすかったなあ…。

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