「なあ、財前呼んでもらえる?」
「あ、はい!」

ドアの付近に立っていた男の子に蔵が話しかけると、光が立っている窓際まで呼びに行ってくれた。
あたし達に気づいた光。それと一緒に周りにいた光の友達もこっちを向いた。

「…どしたんすか、わざわざ2年の教室まで来るなんて珍しいすね」
「今日の練習休みなったんやけど、放送壊れとるから自分らで伝えろってあのア…オサムちゃんから言われてん」
「ふうーん、あのアホからすか」
「お前来年部長なったときのために今を精一杯楽しんどくんやな」
「…蔵、そんなに部長嫌だったの?」
「いや、なんちゅーか…オサムちゃん訳わからん理由で呼び出したりするやん」

げっそりと心底面倒くさそうな顔をする蔵。そういえばこの前は蔵がオサムちゃんから貰ったコケシを無くしたっていう情報をどこからか聞きつけてきて、罰として肩揉みさせようとしたって言ってたっけ。蔵はもちろんやらなかったらしいけど、オサムちゃんの考えることは本当にわかんないよね。

「…ま、別に部長が監督どう思ってようがどうでもええわ」
「おい」
「俺が2年の他のクラスに回ればええんすか?」
「うん、1年には田中と伊藤にあたし達が言いに行くからさ」
「そのノリで2年のテニス部全員とか行ってみたらええんとちゃいます?」
「行きませんよーだ」

あたしがそう言うと、しゃあないなあと光は頬を膨らました。光ってあたしのこと先輩だと思ってるのかな…いや、切実にね。でも面倒くさいとほっぺ膨らます光は子供っぽい感じがして可愛いと思う。ここが教室じゃなかったら頭をぐりぐり撫でてあげたいくらい。

「ほんなら俺等1年の方行かなあかんから行くわ」
「…あ、天子さん」
「うん?」
「なんやあそこに居るやつが天子さんのアド知りたいって言うとったんすけど…」
「え?」

光が見た方を見ると、かっこいい感じの子が頭を下げてくれた。あたしも答えるように頭を下げる。あの子が…?

「今の頭下げてくれた子?」
「あ、そっす」
「…あたしのアドでいいの?」
「いやここで部長のアドなんか教えたら俺ただのアホっすわ」
「あはは、確かに」

あたしはそう笑いながら蔵を見た。え…。蔵は眉間にしわを寄せたむすっとした顔でどこかわからないところを見ている。何、どうしたの?

「それでどうなんすか?」
「あ、うん。アドくらいならいいけど…」
「え、ほんま?」
「?」
「…部長はええの?」

え、蔵?あたしが見ると蔵も、え、俺?みたいな顔で光を見ていた。そりゃそうだよね、蔵が一番びっくりだよね。

「え、あ、俺?」
「はい」
「べ、別に俺の意見なんか聞かんでもええやろ」
「でも天子さんが部長に聞きたそうにしとるし」

そう言ってあたしに目を向ける光。は、何言ってんのこいつ!内心焦るあたしを横目に聞いた本人はけろっとしてむしろ楽しそうなくらい。でも、教えるなって言ってくれないかなあなんて淡い淡い期待も持ってみたり。…いや、ないない!期待を持つだけ辛くなるんだから!
そんなあたしの気持ちなんて全く知らない蔵はあたしの方を見て、あー…と声を洩らす。


「ええんとちゃう?」
「……」
「…あ、ほら、蔵もいいって言ったんだし教えてもいいよ!」
「……じゃ、教えときますわ」

ほらね。やっぱり期待なんかしない方がよかった。でも、そんなこと言わないって保険をかけておいても、心は素直でぎゅうぎゅう苦しいしすごく悲しい。わかってても、辛いんだよ。蔵のこと好きなんだもん。

「じゃあ蔵、1年の教室行こ?」
「あ、おん」
「光はまた明日朝練でね」
「ん、ほなまた明日の朝」

光にばいばいと手を振って教室を離れた。これから1年の教室行くのにこんなテンションで…って、蔵からしたらあたしがこんなに落ち込んでちゃ変だよね。

「田中と伊藤は…3組と6組だったよね?」
「……」
「蔵?」
「…あ、すまん!何?」
「田中と伊藤って3組と6組だよねって」
「ああ、せやで」
「じゃあこっちの階段の方が近いね」

そう言って3組と4組の間の階段を降りて行く。その間も蔵は話を聞いているのかいないのかわからないような反応をしてみたり。あたしはこんなに悲しい気持ちでもさっきのことを気にしないように話してるのに、蔵は何考えてるの?悲しくなるのも嬉しくなるのもあたしの勝手だってわかってる。全部全部あたしの勝手。そんなことわかってるの。



「ほんま、先輩ら2人が一番アホっすわ」



それでも、蔵との時間が嫌なんて初めてだよ。

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