「せいなー帰ろう!」

授業が終わってからいつものせいなを呼ぶ声。ゆっくりと準備をしていたせいなはそっちの方を見ると急いで立ち上がった。

「ちょ、ちょっと待って!」

そう友達に応えてせいなは俺の方を見る。俺のことを気にしとるんやろうか。いくら付き合ったからと言って、一緒に帰るわけではないらしい。なんだかポカンとした気持ちがした。

「あの、仁王くん」
「ん?」
「…一緒に帰ってくれる?」

俺とはあまり目を合わせずそう言ったせいな。え、どういう展開?これ、誘われてるんよな俺。
あ、うん。びっくりしすぎてそれしか言えんかった俺の答えにも、せいなはありがとうと言ってくれた。

「じゃあ私友達に言ってくる!」

友達を大事にするせいなが俺のために断ってくれるなんて、考えもせんかった。せいなは友達のところに向かい、ごめんねと頭を下げとる。そして友達がおめでとう!と騒いだところを見ると俺と付き合ったことを伝えたんやと思う。

「仁王ー」
「…丸井」

その騒ぎを横に見ながら話しかけて来たのは丸井だった。

「お前、松田と付き合ってんの?」
「…今日からやけど」
「だよな。ふーん…ま、よかったじゃん」
「なん?」
「だって仁王、最近は松田と一緒にいるときが一番楽しそうだったぜい」
「…そうかのう」
「意識してない分、たぶんな!うし、俺も彼女作ろーっと」

まあ、お幸せに!そう言って去っていく丸井。きっとあいつに気づかれた時点でかなり広まってしまうやろう。まあ別に悪いもんやないきに気にせんけど。

「あれ」
「準備できたよ!帰ろう!」

いつの間にか机に戻っていたせいなは、カバンを持って立ち上がった。俺はマフラーを適当に巻いてカバンを持つ。行くか。俺が声をかければ嬉しそうに笑った。







「寒いー!」

幾度となく聞いた言葉。知っとる。むしろ俺も今痛感しとるよ。信号が変わって歩き出す。時間的にも人が多くて俺は思わずせいなの手を掴んだ。そのまま離れんように信号を渡る。2人とも手は冷たかった。

「…仁王くんも手冷たい!」

渡り終えてから、せいなは言った。俺は左斜め下を見る。せいなと目があった。

「まあ、あんまり身体が熱くなる方やないのう」
「そうだとは思ってたけどね」
「プリッ」
「可愛くないー」
「別に可愛いの狙っとらん」
「…え」
「え?」

困惑した表情。何、本当に可愛さ狙っとると思ってたんか。2人に微妙な空気が流れた。

「本当に?」
「いやむしろ可愛さ狙うっておかしいじゃろ」
「おかしいの承知だったよ」
「こら」

えっ違うの?そう驚くせいなにこっちがびっくりする。もはやこいつ、俺のことちゃんと彼氏として見とるんか。手繋いだときとかも普通に普通やったし。

「あれ、そういえば今何時?」

日が落ちるのが早くなったせいか、もう暗くなっている。せいなの速さに合わせてゆっくり歩いてきたからかイマイチ時間がわからんかった。

「俺携帯カバンの中」
「えー」
「せいなのは?」
「あるけど…」

そのまませいなの目線はコートの右ポケットへ。

「ああ、すまん」
「ううん」

そう言って手を離すと空気が冷た気がした。お互い冷たいと思っていた手は、思っていたよりも暖かくなっていたらしい。

「んー、4時半かあ」
「急ぐか?」
「ううん大丈夫!」
「でも、結構暗くなってきとるよ」
「…いいよ、大丈夫!」

携帯を閉まったせいなが手を伸ばしてきて、俺は再び手を握った。離れていたせいで少し冷たくなっとったけど、どこか暖かい。せいなは手を握った俺を見てから空を見上げた。

「あ、仁王くん見て!」
「ん?」
「オリオン座!昨日習った!」
「…おー、ほんまじゃ」
「綺麗だよね」
「おん。そういやせいな、星座の勉強好きやったのう」
「んふふーまあね」

空を見上げていた顔を下ろしてせいなを見る。これから、星と聞く度にせいなを思い出すようになるんやと思う。今自分と手を繋いで、白い息を吐いて、空を見上げているこいつが星になるんやから、そりゃあ忘れられんじゃろ。

「…でね、オリオン座で南西のところ…左下のところにあるすごい光ってる星わかる?」
「おん、あれやろ」

俺は手を伸ばして星を指差した。うん、それ!せいなを見ると小さい子供のように笑った。

「あれが何?」
「あれ、シリウスっていう星なんだって」
「へえ」
「…私、あのシリウスの近くの星になるみたい」

せいなはぎゅうっと強く俺の手を握った。俺も握り返す。何なんやろう、これ。こいつやなかったら、冗談って流すのに。



(ほんとうなんやろうなあ)

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