「あ」

11:30。今日が終わるまで後30分。ベッドに寄りかかってあぐらをかく俺の上にせいなは座っとる。せいなが部屋を暗くしたいって言うから、部屋には小さいオレンジ色の光がついとるだけ。

「もう半か」
「…早いね」

本当、早すぎる。せいながしんみりと言った。30分後には、せいなは俺の中からもここに存在する誰の中からも消える。そして星になってキラキラと光るんやと思う。

「せいな」
「ん?」
「今日、楽しかった?」
「うん!雅治が知らないおじいさんに銀髪びっくりされてたのも面白かった!」
「あー、あれはなんやったんやろうな」
「雅治すごい困ってるのね!あんなのそうそう見れないよ?」

今日浜を出て町中を歩いていたときに、知らないおじいさんに俺が話しかけられたことがよっぽどおかしかったらしい。こうやって!と、目をキョロキョロさせて俺を演じてみせるせいな。

「そこまでやないやろ」
「本当だって!でもいきなり、髪すごいね兄ちゃんなんて言われたらびっくりしちゃうよね」
「別にこんな髪居るって」
「いやいないいない」

そう言って俺の髪をふわふわ触るせいなは、一体何を考えているんやろう。俺がせいなの立場だったらどうしてたやろうか。

「…なんか考え事?」
「いや…」
「言ってみてよー!今なら何でも聞くよ?」
「……もし俺がせいなの立場やったら、どうしてたんかって考えてた」
「へえ…で、どうしてた?」
「わからん」
「え」
「想像もつかんかった。でも、強いて言うなら何もせんかったと思う」
「…なんで?」
「やって誰も信じてくれんやろ、突然そんなん言われても」

星になるなんて誰が信じる?しかも関わった人の中から自分は消えるのに。何も残らんのに言うなんてことは、たぶん俺は選択しない。

「でも、雅治は私が言ったこと信じてくれたでしょ?」
「それはおまんがそんな嘘つかんって思ったからじゃき」
「それでも信じてくれたんでしょ?」
「…まあ」
「じゃあ私は行動してよかったってことなるね!」
「え?」
「だって雅治は信じてくれたもん」

それに、好きになったのが雅治じゃなかったらそんな風に思ってくれてなかったし…私、雅治のことを好きになってよかった!
目が慣れて振り返って笑っとるせいなが見えた。そうやって笑っとるせいなを見れるのも、思い出せるのもあと少し。そう思ったら急に愛しくなって手を握った。

「そうやのう。俺を好きになって正確やったぜよ」
「あ、自分で言っちゃう?」
「やって事実やろ?」
「…そうだけど」
「……俺も、おまんが告白してくれてよかった」

せいなを後ろから抱きしめる。それだけで愛しゅうてしょうがなく思えるなんて、1週間前には想像もせんかった。でも今はよかったって思える。好きになってくれたんが俺で、それをちゃんと言ってくれてほんまによかった。
せいなが不意に俺の方を向いて、頬に口付けた。

「雅治も嬉しいこと言ってくれるね」
「おまんもやってくれるのう」
「だって嬉しくて!私、雅治がそんなこと言ってくれる人だなんて思ってなかったよ」
「…俺も、自分が言うと思わんかったぜよ」
「え」
「最初は手とか口とかから気持ちが伝わればいいって思っとった。でもせいなを好きになるに連れてそれじゃ足らんくなって」

今度は腕を緩めて俺からのキス。明日になったとき、こうしてキスしとったらどうなるやろう。一瞬前まで感じていた温もりも忘れてしまうんか?そんなん、ただの阿呆じゃ。でもきっと俺はただの阿呆で、忘れてしまう。ゆっくりキスをしとるとせいなが泣き始めたから、俺は口を離した。

「どう」
「好き」
「……」
「雅治のこと、本当に本当に好き」

大好きだよ。一番、誰よりも大好きです。
涙を拭きながらせいなは必死に伝えてくる。胸が苦しくなった。きっと明日にはおまんを忘れてしまう俺なのに、それでも涙を流すほど好きって言ってくれとる。…俺だって一番せいなが好きじゃ。ほんまにせいなだけでええのに、なんでせいなを忘れなきゃいかんの?

「…ふふ」
「せいな?」
「こんなに人に好きって言ったの、初めてかも」
「……」
「恥ずかしいけど、すごい幸せ」
「…俺も、!」

せいなの体が突然光った。

「え、私…光ってる?」
「ひ…かってる」

慌てて俺は時計を見た。時計は11:50を指している。もう10分しか、ない。

「うっそ、すごい!私全部光って」
「せいな」
「…ん?」

はしゃいでいたせいなを呼ぶと、不思議そうに俺を見た。せいなの目を見つめる。体が光って、顔がはっきりと見えた。

「俺は…松田せいなが好きじゃ」
「へ」
「誰よりも、一番好いとうよ」
「……」
「…いや、愛しとる…かのう」
「……。何それっ」

ふっと笑ってそう言うと、唇を噛み締めて俺から目を反らすせいな。涙がポロリとこぼれた。

「…ばか雅治」

そう呟いて涙を抑えるようにせいなは息を吸った。そして俺と目を合わせる。

「ありがとう」

また涙が流れたけど、それは拭かずにせいなは笑った。俺は涙をぐっと堪えた。俺が泣くんやない。違う、泣くな。

「…私さっき幸せって言ったけど、やっぱり今の方が幸せかも」
「……」
「雅治にもらった幸せ、忘れないね」

涙が伝うせいなの頬を俺は指で拭う。

「俺も忘れんよ」
「…本当に?」
「本当」
「……うん、わかった。信じる」

せいながそう言うと、ピンク色に体が光った。見るともう足が消えとる。せいなが、消える。俺はもう一度キスをした。

「愛しとうよ」

口を離して伝えると、せいなは頷いた。あたしも。口がそう動いて、涙をこぼしながらせいなは笑う。握っとった手が消えた。でも、まだ覚えとる。せいなの何もかもをまだ覚えて



光とせいなが、消えた。



(それからまばたきをしたおれは、すべてをわすれとった)

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