死体が、眠っている。
外面、内面共に酷く傷め付けられた、見るに耐えない悲惨な死体。服は裂け、そこからは肉だけでなく骨迄がのぞいていた。
それくらい、その死体は無惨だった。









死体が、眠っている。
覚悟していたのだろうか、その瞳は堅く閉ざされていた。それだけならば眠っているように見えただろうが、血に塗れてしまっている為に、それは完全なる死体であった。誰もが一目で悟るだろう。
死んでいる、と。









死体が、眠っている。
シロガネ山の、崖下で。そしてその死体は、誰にも見付けられることなく今も、























レッドさんは多分、グリーンさんを想って死んだんだと思う。だから、グリーンさんに会えば解放されるんじゃないかと思ったんだ。成仏、してくれると思ったんだ。

グリーンさんは、最後迄レッドさんの死を認めなかっただろう。だから、あんな顔をしていたんだと思う。でも、でもねグリーンさん。僕が根拠もなしにそんなこと言うと思いますか?まして、憧れの人がもう死んでいるなんてこと、冗談でも言うと思いますか?それも、恋人である貴方に。
僕は、生憎とそんなふざけた人間じゃない。僕だって、信じたくなんか、なかったんだ。レッドさんが、死んでる、なんてこと。
でも、見付けてしまった。気付いて、しまったんだ。










レッドさんと初めて会ったのが、五年前。僕が11歳でレッドさんが13歳の時。シロガネ山の頂きで、バトルして、負けて、リベンジに来ますって約束した。
そして、その一年後。約束通りリベンジに行って、今度こそ、と思ったけど、負けた。僕は悔しくて悔しくて、やっぱりまたリベンジに来ますって約束した。
それから、少しの努力じゃあの人には勝てないと知った僕は、ひたすら修行に明け暮れた。そしてやっと、大丈夫だ、今度こそ勝てる、そう言える位自分に自信が付いた時には、約束を交わしてから三年も経過していた。
そして、僕が15歳、レッドさんが17歳の時。詰まり、去年。レッドさんにバトルを仕掛けて例の如くぼこぼこにされて、次こそはと意気込みながら山を降りている時。偶然、見付けたんだ。否、見付けて、しまったんだ。









ぼろぼろで血が大量に痼付いた、赤い、帽子を。










近付いてよく確認した。レッドさんの物な筈がないから。ちゃんと、確認したんだ。ポケモンだって使った。匂いを嗅がせて確かめた。なのに、それなのに。
確認すればする程、調べれば調べる程、それはどんどんレッドさんの物になっていくんだ。認めたくなんて、ないのに。そんな筈、ないのに。
だって先刻迄バトルして、喋って、それからそれから、



















「――え?」



















ぞくり。
背中を何か、不快なものが這ずり回る感覚に、体躯を覆う恐ろしい迄の寒気。――やばい。
本能的にそう思った僕は、急いで山を降りたんだ。

これは、後から思ったことだけれど。
レッドさん、17歳になったっていうのに、まるで変わっていなかった。性格じゃない。外見が、だ。だってレッドさん、僕とあまり変わらなかった。僕は成長しているのに、レッドさんはそのまんまで。三年前と、何一つ同じ、だった。










レッドさんが死んで迄待っているのは、きっと強いトレーナーなんかじゃない。だって、レッドさんとは約束をしなかったから。否、させてもらえなかったから。自分を倒してくれるトレーナーを待っているだけなら、僕と何時もみたいに約束を交わす筈。そうでしょ?強くなって早く倒してくれ、そう約束するでしょ。それをしなかったのは、待ち人が違うから。
バトル以外にレッドさんの心を縛るようなものなんて、ひとつしかない。否、正確には、ひとりか。
それが、グリーンさん。

だから、グリーンさんに会わせれば、何もかも上手くいくと、そう思った、のに。

「………なんで、」





















死体が、見付かった。
外傷は見当たらず、かと云って内傷も見受けられない、不思議な死体。まるで、眠っているかのようなそれに、まだ生きているのでは、と云う者さえ居る。
それくらい、その死体は、綺麗だった。









死体が、見付かった。
それが死体だと発見者に認識されたのは、目を見開いて倒れていたかららしい。まるで何かに驚愕したかのように見開かれた瞳は、綺麗な赤色をしていたとか。それを見た人々は口を揃えてこう言った。
それは、まるで血のようだったと。









死体が、見付かった。
シロガネ山の、頂きから。そしてその死体の生前の名は、グリーンと、言うらしい。




















呟きに、返事はない。
返事の代わりに僕を襲ったのは、あの、不快な――






















――ぞくり。
レッドさんの、血のような赤い瞳が、まるで血のように痼り付いて、





















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