緑間と星空の下
『一時間後に真ちゃん家の近所の公園に集合でヨロシク!』
高尾からそのメールが来たのは、7月6日の時計の短針が今日二度目の10を示す頃だった。
完全に無視するつもりだったオレの気を迷わせたのは、スクロールの先にあった一言。
『待ってるからな』
まさかとは思うが、一晩待っているつもりはないだろう。そうに決まっている。
アイツも決して馬鹿ではないのだから30分も経てばオレが現れないことくらいは分かるに決まっている筈だ。
そう言い聞かせてはみるものの、何故か言い知れない不安は消えず。気づけば公園に足を向けている自分がいた。
「おー、早かったね真ちゃん」
公園のブランコに腰掛けた高尾がオレに気づいて顔を上げる。
というか、あのメールが来てからまだ一時間どころか15分しか経っていない。
いつからここに居たのだよコイツは。
「何の用だ?」
半目で見据えれば、相変わらず屈託ない笑顔が返ってくる。
「真ちゃん、明日は雨になるらしいよ」
「だから何なのだよ……」
「今夜はこんなに晴れてんのになー」
「……」
そう言ってひっくり返らんばかりの勢いで空を仰ぐ高尾につられて、オレも空を見上げる。
そのとき初めて、夜空一面に広がる目映い満天の星々に気がついた。
その星の明るさに思わず息を呑む。
「ぶはっ、やっぱり真ちゃん気づいてなかったみたいね」
「……さすがに、驚いたのだよ……都会でもこんなに綺麗に星が見えるものなのだな……」
光源の多い町では空の色すら霞んで。改めて空を見上げることなどないに等しい。
半ば見入るように夜空を見上げていたら、不意に高尾が口を開いた。
「きれーだよなぁ……真ちゃんみたいだわ」
「ブッ……!!」
「え、真ちゃん、いま噴き出したの?!やっべ、ちょうレアな顔見逃した!!」
「うるさい黙れ!」
「やだ真ちゃんってば照れちゃってもー」
ブランコを漕ぐ高尾は上機嫌で、心なしかその笑顔もいつもよりリラックスして見える。
「明日が雨なのは残念だけどさ、織姫と彦星は人目を憚らずデートできるよな」
「は?」
「ちょ、真ちゃん。明日は七夕だぜ?」
「……そんなことは知っている」
「いやだからね、」
「織姫と彦星など、所詮言い伝えに過ぎん」
一言。そう告げると、高尾が少しだけ淋しそうな笑みを浮かべた気がした。
「真ちゃん。今日は来てくれてありがと」
ギッ、と鈍い音を立ててブランコから立ち上がった高尾は此方へと歩いて来る。
その瞳の中に星の光が瞬いて見えるほどに距離が近づいて。
驚いて動けずにいるオレの左の頬に、温かな何かが触れた。
「一日早いけど
ハッピーバースデー、
大好きだよ。真ちゃん」
明日になったら、いつものオレに戻るから。
だから。今日だけは、許してね。
そう呟いた高尾は、星空の下で優しく微笑った。
(一年に一度だけでいい)
(キミの“トクベツ”にしてください)
(13/6/10)