鳴り響くのは何の鐘 | ナノ




はた、と目が覚めた。いや、正気を失っていただけで寝ていた訳では無い為、目が覚めたという表現は相応しくないかもしれない。いや、そんなことは正直どうでもいいのだ。

「っぁ、あ、ふぁん、あんっ、」

俺の、上で。現在進行形で、イイ声を上げながら腰を振っている、女がいる。
とろん、と完全に快楽に溶けたその瞳は、覚えがあり過ぎる翡翠色だ。
待て、これはどういうことだ。状況がさっぱり呑み込めず、混乱は深まるばかり。理解が追い付かず、反対に与えられる性感に欲ばかりが高まっていく。
脚を大胆に開いて、真っ赤な秘部が男根をくわえ込むいやらしい様を見せ付られる。ぐじゅぐじゅと濡れた音を立てる秘部、汗の伝う柔らかそうな太もも、律動に合わせて上下に揺れる豊かな胸。視覚の暴力とも言える光景と艶っぽい喘ぎとの相乗効果で、長らく発散させていなかった欲が急速に膨らんでいく。

「あひ、ぃんっ!?あ、…お、おっき、!おっきい、よぉっ!っん、は、」
「っ!…ちょ、おっさ、」
「はあぁんっ!あ、も、いいっ!いいっ、あ、ぁああんっ!ぁんっ!」

卑猥なことを易々と言ってのけるのに、普段とのギャップもあってさらに身体が熱くさせられる。止めさせなければならない、とは思うのだが、気持ちが良いのが先に立ってしまって、どうにもうまくいかない。退けさせようと動いた手も、彼女の太ももに添えただけに終わる。

「ひぃんっ!ふぁ、いくっ、いくぅっ!やぁっ、いっひゃ、ううぅぅっ!!」
「っや、ば、」
「く、っふぅううぅぅぅんっ!!」

びくん、と上に乗った身体が一際大きく跳ねて、ぷしゅっと潮を吹き出した。派手にイった彼女がきゅうきゅうと締め付けてくるのに、抜く暇もなくこちらも達してしまう。

「ひぁ、なかっ、なか、きてるのぉ!あついの、いっぱいぃ…!」

しかし焦るこちらをよそに、彼女は恍惚とした笑みを浮かべて喘いでみせた。もうあんたはどこの痴女だ。淫乱だ。なんなんだ。なんなんだ、本当。
壮絶ないやらしさに眩暈を覚えたその時、彼女が電池が切れたかのようにへたりと倒れかかってきた。覗き込むと瞳は閉じられていて、穏やかな深い呼吸音も聞こえてくる。どうやら寝てしまったらしいと分かり、健全な男として少々残念な気持ちも無くはないが、やっと解放されたことに安堵の溜息を吐いた。
欲を発散してクリアになった頭で、冷静に考えてみる。昨晩何があったのか、どうしてこうなったのか。
取り敢えずレイヴンを横に寝かせたが、目のやり場に困るので、ぐしゃぐしゃになってしまったシーツをかけてやった。むぅ、などと寝言を言う様子が幼くて、本当に先程までと同一人物なのかと問い掛けてみたくなるが、今は我慢だ。
身を起こし、辺りを見回す。どうやら宿屋の一室らしい。ベッドは一つだから一人部屋か。そして床を見ると、転がる無数の酒瓶が。

「………あ。」

そうだ、そういえば昨日はたまには贅沢をしようと一人一部屋取って、ゆっくり休息しようということになったのだ。夕食を終えてから部屋で武器の手入れをしていると、いい酒あるから一緒に飲まない、とレイヴンに誘われて。しばらく二人で飲んで、何故か飲み比べになって、二人ともべろべろになった時。

『せーねん、ほんとかっこいいわよねぇ。きれーなかおしててさぁ。』
『あんたも近くで見るとなかなかかわいい顔してんじゃねぇか。』
『えっへぇ〜。なーにぃせーねん、おっさんにほれちゃったぁ?』
『はっ、それも悪くないな。おら、おっさんこっちこい!』
『やぁんおーぼー!ごーいんなおとこはきらわれるのよぉ?』
『自分から擦り寄ってきといてなに言ってんだ。』
『んぅ、だってせーねんあったかいんだもーん。すりすり。』
『甘えん坊なこって。お、あんた意外と胸でかいんだな。』
『やん、せくはらぁー…。』
『んな嬉しそうな顔すんなって。…わ、すげぇ。でっか…。』
『やぁ、おっぱい、むにむにしないでぇ…。』
『して、の間違いじゃねぇの?』
『ぁん!や、きもちく、てぇ…。』
『あーもう、かわいいわあんた。』
『はぅ、ゆーりぃ、……』

で、あれよあれよとやってしまった、と。思い出して、罪悪感で床にめり込んでしまいそうな心地になった。
酒に酔っていたとはいえ、恋人でもない女性、しかも共に旅する仲間の一人であるレイヴンとセックスをし、更に中出しまでしてしまった。先程まで目の前で行われていた、紛れもない事実である。
どうしようか。どうすべきか。
ちらり、と隣で眠るレイヴンを見やる。自分も記憶を飛ばしていたのだから、彼女も恐らく今日のことを覚えてはいないだろう。そこで、どうすべきか、だ。
レイヴンのことは、嫌いではない。寧ろ好意を抱いてすらいる。が、その好意というのが仲間に対するものなのか、一人の女性に対する特別なものなのか、いまいち自分でも分からずにいた。

(――――……けど、)

ふと見せる寂しげな横顔とか、困ったような笑顔とか、そういうものに、何か胸に込み上げてくるものがあるのは確かだった。エステルにも、リタにも、ジュディにも、パティにも、他の誰にも抱くことはない感情。

「………あぁ、そうか。」

守りたい。この感情を、そう呼ぶのかもしれない。ひどくシンプルで、今まで気付かなかった、大切なもの。名前が付いてきちんとラベリングされたことで、ふわふわと落ち着かなかったそれが、ストンと心の中に収まった気がした。
眠るレイヴンの頬を、撫でてやる。朝彼女が目覚めたら、真っ先に土下座しよう。謝って謝って謝って、死ぬ程謝って、口説くのはそれからだ。



鳴り響くのは何の鐘

100805





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