『俺のもんになれ。』 とプロポーズらしからぬ脅迫じみたプロポーズを受けたのがほんの一週間前。どうして自分は今此処に居るのだろう、とレイヴンは思わずにいられなかった。 「レイヴン、可愛いです!」 「なかなかいいじゃない。」 「ふふ、とても素敵よ。可愛いわ。」 「あ、ありがとー………」 居たたまれない。非常に居たたまれない。華やかに着飾った嬢ちゃんやリタっち、ジュディスちゃんにされるがままにされて数時間、普段滅多にしない化粧を施され普段絶対に着ないふわっとした純白のドレスを着せられ髪も綺麗に整えられて、俺は憔悴しきっていた。慣れないことをしたという疲れもあるが、若く可愛らしい彼女たちのドレス姿と比べて、自分の何て不恰好なことか。彼女たちが頻りに称賛の言葉を掛けてくれるもそれも慰めにしか思えず、今すぐにでも逃げ出してしまいたいほど恥ずかしかった。しかもあと少しでこの無様な姿が多くの人々に晒されてしまうと思うと、頭に乗っかった憂鬱の重さで地面にめり込んでしまいそうだった。 「ほら、主役がそんな死にそうな顔しててどうすんのよ。」 「だ、だって!いい歳してこんな格好、は、恥ずかしくて。こんなの着たことないし、似合わないし。」 「そんなことないです!とってもよく似合ってて、可愛いですよ?」 「そうよ、自信持って?このまま攫ってしまいたいくらい可愛いもの。」 「う、うぅ〜〜……。」 そうこうしている内に式の時間が近付き、嬢ちゃんたちも頑張ってと言い残して去っていく。一人だだっ広い部屋に取り残されてしまって途方に暮れた俺は、やたらボリュームのあるスカートを持て余しながらぐるぐると歩き回るしかなかった。どうしようどうしよう、いつの間にか話が広がりまくって仲間たちだけじゃなくギルドの連中や騎士団の奴等まではるばるやって来ているらしいのに、こんな姿見せたら笑い者になるに違いない。それで気を使われて慰めの言葉を掛けられて、彼にも恥をかかせることに、 「おい。」 「っ!?」 急に掛けられた声にびっくりして慌てて振り向くと、真っ白なタキシードを着て長い銀髪もきっちりと一つに纏めて、普段の狂暴さからは想像もつかないような紳士然とした人物が、そこに居た。まぁ悪そうに口端を釣り上げるいつもの笑顔の所為で、それも台無しなのだが。それでもあまりの似合いっぷりに、思わず見惚れてしまった。 「……んな見んなって。」 「だ、だって。なんか。違う人みたいっていうか、似合ってて。」 「堅っ苦しいけどな。まぁそれなりに様にはなったみてぇだ。」 にやり、と笑う彼が普段の三割増で格好良く見えるのも、礼服の所為なのだろうか。ぽーっとそう考えていて、俺は今の自分の状況をすっかり忘れてしまっていた。 「……馬子にも衣裳、って奴か?」 「へ?」 見下ろすとレースだのフリルだので飾られた可愛らしいドレスがそこに。しかしそれを身に付けているのは自分なのだと思い出し、揶揄するようなティソンの笑いにたちまち真っ赤になった。 「わ、ちょ、やだ!みっ見ないで!」 「いいじゃねぇか。減るもんじゃねぇし、どうせいつか見られるんだろ。」 「ど、どうせ馬子にも衣裳だもん…似合わないのなんて分かってっけど、」 「似合わねぇなんて誰が言った。」 「ぇ、」 「様になってんじゃねぇか。」 彼がそう言ってまたにやりと笑ったかと思うと、そのまま呆然としている俺をふわりと抱き上げた。所謂、お姫様抱っこ、というやつ。女の子にとって永遠の憧れらしいが、今の俺にとっては混乱を煽る効果しか持たない。 「な、なにっ、なんで、」 「おら、行くぞ。時間だ。」 「えっ!や、ちょっ、ストップ!無理!こっ心の準備、が!」 「あ?んなの気合いでなんとかしろ。」 「無理っ!無理だって!やっぱ俺なんかじゃ、こんな格好、」 「ちっ、俺様の言うことが信用出来ねぇってのか?」 「…………さ、様に、なって、る?」 「あぁ。……このまま誰にも見せずに、かっ攫っちまいてぇくらいには。」 「………っ!」 ただでさえ赤かったであろう頬が更に熱くなって、へにゃへにゃと力が抜けてしまった。そんなキャラだったっけこいつ、とか思いながらもほんの少しだけ自信がついた、なんて言ったら惚気になってしまうのだろうか。何だか別の意味で物凄く恥ずかしい。けど嫌ではない。 真っ赤な頬をそのままに少し顔を上げて、そっと彼の頬に唇を寄せた。 「………あ、りがと。」 珍しく驚いた顔をした彼に俺の方が驚いていると、何故か彼がぴたりと歩みを止めた。首を傾げて見上げると、眉間に皺を寄せて何か考えている風な彼の顔。 「…式って、延期とか出来ねぇよな。」 「?そりゃ出来ないでしょ。何。」 「ムラムラした。」 「っ馬鹿!さっさと行け!」 「ちょ、暴れんな!」 「うっさい変態!」 本日快晴恋日和 100710 |