「タイガーってお母さんみたいだよね!」 トレーニングセンターに備え付けられているドリンクサーバー前で、ストローから口を離したホァンがふとそう言った。 名指しされた虎徹本人は、今までさぼっていたツケだとバーナビーから課された特別メニューをこなしている最中であり、この場にはいない。 虎徹以外のヒーローの面々が首を傾げて考える素振りを見せる中で、イワンが思いついたように顔を上げ、うんうんと何度か頷いてみせる。 「タイガーさんは物知りで、すごく優しいです。ジャパンについて色々教えてくれて、この間もスシバーに連れて行ってくれました。」 「おばさんが物知り、ですか?」 「はい!けれど知識はひけらかさずに控えめで…まさにジャパニーズ・ヤマトナデシコです!」 「ヤマトナデシコ?」 「清楚で慎ましい女性を指すジャパンの言葉です!」 「おばさんが清楚…?慎ましい…?」 「なんかそれは違う気がするぞ、折紙」 「え?」 頭上に疑問符を浮かべるイワンはさておき、今度はネイサンが唇の前に手をやって、ウフフと意味深に笑う。 「そうねぇ、タイガーちゃん世話焼きだから…そこは流石子持ちってところかしら?でもドジだから何だか放っとけないのよねェ。」 「ああ…それ、なんだか分かります。」 「確かに、あたしも分かるかも…それ。」 首にかけたタオルを引っ張り、上を向いて何かを思い出すようにしながらカリーナが言う。 「ドジなのよね、基本。よく物壊すし突っ走るしお人好しだし……」 「確かに。」 「でも、『いつも頑張ってんなー、おつかれ!』とかって頭撫でてくれたり……、そーいうのは、嫌いじゃ、ないかも…」 「ふふっ、カワイイ。」 「うっさい!」 笑うネイサンにカリーナが噛み付く横で、長いことうーんと唸っていたキースがぽんと手を打って朗らかに笑う。 どこからどう見ても非の打ち所のないその笑顔で、一言。 「ワイルド君がお母さんなら、お父さんは誰になるのだろうか!」 にこにこと光り輝くような笑顔で投下されたのは、紛れもない爆弾。しかしキースは至って真面目にそう言ったので、本人にそういった自覚はなかった。 「私はなりたい、そしてお父さんになりたい!」 と爽やかな笑顔のままキースが言うと、 「いえ、それは普通に考えてパートナーの僕が妥当でしょう。」 とバーナビーが眼鏡を光らせながら言い、 「ボクお父さーん!だってタイガー大好きだもん!」 とホァンが笑顔で言えば、 「えっ、じゃ、じゃああたし…も……」 とカリーナが恥ずかしげに言い、 「せ、拙者も……その……」 と顔を赤くしながらイワンもおずおずと言い、 「“お父さん”って響きはイヤだけど、タイガーちゃんのことは好きよォ?」 とウインクをしてみせながらネイサンが言う。 ヒーローTV本番の時とはまた違った、けれどそれによく似た独特の空気をその場からを感じ取り、アントニオはひとつ身震いをした。 その大きな背中に、突如抱き着くようにして飛び付いてきた人物が一人。 「つっかれた〜。バニーちゃん、マジ鬼コーチ……、ってあれ?みんなどした?」 ぱちぱちと瞳を瞬かせ、虎徹が首を傾げる。年に似合わぬその仕草も虎徹がやればなぜか様になってしまうもので、ヒーローたちは皆癒され、場の空気が一瞬和らいだ。 しかしそれも束の間、空気の読めないことに定評のある男が一歩踏み出し、虎徹の手をそっと取った。 「ワイルド君、私はお父さんになりたい!そしてなりたい!」 情熱的に両手を握ってそう言ったキースに、虎徹のみならずヒーローたちも呆気にとられる。 数秒後、未だにヒーローの面々がぽかんとしたままの中、一足先に我に返った虎徹がにっと笑った。 「子どもはいーもんだぞー。お前いい男だし、じきになれるさ………ってその前に結婚か!あー結婚もいーぞー。なんかこう、しあわせなんだよな。」 そう言って虎徹がふにゃりと笑う。その視線の先は、彼女の手を取るキースではなく、相棒のバーナビーでもなく、他の立候補者でもなく、唯一お父さん選挙に立候補していないごつい男だった。 自分が他人からどう見えているのか。そういったことに対して虎徹は割と鈍感で、だからこそ何とはなしの行動に彼女の本音が表れている。そう分かっている聡いヒーローたちは、一人を除いて皆落胆した。 唯一の幸福者―――アントニオは、顔を赤く染めて奥歯を噛み締めていた。にやけそうになるのと、今すぐにでもこの素直な恋人を抱き締めてやりたい衝動を抑えるための彼なりの措置だった。 それから楓がかわいくてどうの、賢くてどうの、思いやりがあってどうの、といった虎徹のいつもの親馬鹿話が始まる。 すっかり毒気を抜かれてしまった敗北者たちは、嬉しそうに喋る虎徹の姿を微笑ましく思いつつ、深い深い溜息を吐いたのだった。 爆発すればいいのに! 111026 ――――――― 「虎徹♀が皆のオカンで誰がオトンになるかで争いに・牛虎オチ」とのリクエストでした。 牛虎リア充はあはあ |