助けてくれ、と。 そう一言だけ書いた手紙が来て、そこにある名前に仰天したのが昨日。 野山を越え、草原を抜け、小さな小屋の前に辿り着いた今日。 レイヴンは大爆笑していた。それはもう、盛大に。声も出ないほど。 ひいひい言いながら涙を拭うと、目の前の男がじとーっとこちらを見ていることに気付く。その白い柳眉はぎゅっと寄せられていて、表情のあまりないこの男にしては珍しく、分かりやすく不機嫌そうであった。 「っごめん、ごめんって……っぶふ…っ…」 「いい加減笑うのを止めろ」 「はいはいっ、分かってるって!……くく…っ」 「……………」 込み上げてくる笑いを無理矢理に噛み殺していると、ようやっと治まってきた。 落ち着いたら、今度は好奇心の方がそそられる。きらきらした瞳で上を向いたレイヴンは、にいと笑って両手を伸ばした。 デュークは珍しく目を見開いて驚いた素振りをみせ、さっと身を引こうとしたが、レイヴンの方がやや速かった。 ふに。 ふにふに。 ふにふにふに。 「………………」 「………………」 「………あらまー、立派なお耳…。」 そう感想を言うと、あからさまにデュークが嫌な顔をしてみせる。 レイヴンはそれに気づかない振りをして、彼の頭頂部から生えるふわふわの白く長い耳―――はっきり言ってしまうと、うさみみ(本物)―――の感触を楽しんでいた。 「これ神経通ってんの?」 「ああ」 「ほー、すげーのねぇ…。やーらかーい」 「あまり引っ張るな」 「あ、ごめんごめん」 「………………」 「やーしかし気持ちいいわー」 「………………」 デューク曰く、数日前の朝目覚めたらなぜか生えていたらしい。原因の心当たりを聞いてみると、少し前に怪しげなキノコを食べたという。よくよく考えてみれば模様がうさぎのように見えなくもなかったとか。 アホか。と正直思ってしまうのだが、事実目の前にうさみみを生やした男がいるのだから信じるしかない。 とりあえず知り合いの医療ギルドと、植物に詳しい採集ギルドに一筆書いて送っておいた。レイヴンに出来ることといえばこれくらいだ。 「一応大至急ってことで手紙は出してみたけど…まあある程度時間が掛かることは覚悟しといた方がいいわね。原因がそのキノコとは限らないし。」 「…………」 「……落ち込んでる?」 「当たり前だろう。」 「あ〜…、に、似合うぞ?結構。かなり。」 「………それは、フォローのつもりか?」 「一応」 「阿呆」 「ひど!」 苦し紛れに言った言葉だが、事実白い髪と赤い瞳を持つデュークには兎の耳がよく似合っているとレイヴンは思う。兎は草食だというし、それもなんとなくデュークの雰囲気に合っている気がする。 というかぶっちゃけてしまうと、“なんかかわいい”とレイヴンは思っていた。勿論心配で気の毒ではあるのだが、かわいいじゃないかこれ。うさみみ……言葉の響きもかわいい。ぴこぴこしてるのもかわいい。それに、こーんな仏頂面にかっわいいうさみみ引っ付けて。 「いひひー」 「お前は私を怒らせたいのか」 「へ?違う違う。あーすげぇ心配。」 「………全く危機感が伝わってこないのだが」 「なんというか、うん。ごめん。かわいいわ!俺うさぎ好きだわ!」 「………………」 「………………」 「………………」 「……な、何。」 「…そうか」 「?」 思わずぶっちゃけてしまったにも関わらず、デュークは相変わらずの無表情。ちょいちょいと手招きされて素直にそちらに行くと、無言でずいと頭を出される。 「………………」 「………………」 「えーっと…………何これ。」 「触れ」 「………………」 「………………」 両者無言の空間。この男との無言は別に苦ではないけれど、今は本気でどうしたらいいのか分からなかった。 動かないのを不思議に思ったのか、デュークがこちらをじっと見上げてくる。その姿を“なんかかわいい”と思うと同時に、その赤い瞳から無言の圧力を感じ取ってしまった。 えーっ、と。 「遠慮はするな」 「………………」 「………………」 「…………シツレイシマス…」 ふに。 気持ちいい、気持ちいいのだが、先程何の気なしに触っていたことが嘘のように触りにくかった。精神的な意味で。 しかしそんなこちらの気も知らず、デュークはなぜかやけに満足気な顔をしている。まるで意味がわからない。 消えない無言の圧力に従い、首を傾げながらうさみみを触り続けることしかレイヴンにはできなかった。 (……なんでこうなったんだっけ!?) 不可解な兎の話 111015 ―――――― 「デュークとレイヴン(♀)がほのぼの」とのリクエストでした! ♀要素ほぼ皆無ですみません…!こ、心の目でなんとか…! デュークさん絶対うさみみ似合う。 |