明星高校には割と規模の大きな中庭が存在する。渡り廊下で繋がった校舎二棟の間に広がるそこは、園芸部の積極的な活動により沢山の緑と草花で満たされており、季節ごとに様々な花が咲き乱れる。さらに過ごしやすいようベンチや噴水まで設置されており、生徒・教職員一同の憩いの場となっていた。 風が冷たくなり始めたこの頃では、金木犀が香り始め、コスモスが儚げに風に揺れている。 所変わって、校舎本館4階の物理準備室。窓からぼんやりと空を眺めていたレイヴンは、ふわぁとひとつ欠伸をした。雲がゆっくりと風に乗って流れていくのが見える。 眠気を纏いながらふっと下を向くと、木々や草花の狭間に何やら白いものが見えた。 白い花なんて植えてあっただろうか?しかもあれは結構な広範囲だ。 不思議に思い目を細めて見てみると、白いものが突如ひゅっと舞い上がる。同時にひゅうと風が吹き込んできて、そこでようやくレイヴンに思い当るものがあった。 * 「よう」 「……授業はどうした」 「俺様この時間は入ってねぇのよ。お前こそ、さぼり?」 「お前と一緒にするな」 「何だそれ。」 金木犀の樹の下、芝生の上に“白いもの”はいた。正確には人だった訳だが、ゆるく癖の入った白い長髪に生白い肌、おまけに白衣まで着ているのだから、“白いもの”と思われても仕方がないだろう。 今の絵面的に、中年二人が草花に囲まれているといったかなりきつい状態なのだが、この白い男はびっくりするくらいに溶け込んでいた。 彼は生物教師のデューク。とんでもない美形だが少々変わり者で、神出鬼没。生徒たちからは“見掛けたら今日一日ラッキー”などと言われているのだが、本人は知らないのだろう。 「あの憂いに満ちた横顔や、ミステリアスな雰囲気が素敵!」なんて言っている女生徒が結構いるらしいのだが、レイヴンとしては案外何も考えてないのではと思っている。口に出したらただの嫉妬だと思われそうなので言わないが。 「なあ」 「何だ」 「今何考えてる?」 「……味噌汁の具はわかめと豆腐が至高だと…」 「………………」 「なめこも捨てがたい」 「………………」 「………………」 「……………玉ねぎとあぶらげも、入れといて…」 「断る」 先生と白 110928 ―――――― ボツなんですが勿体ないので。 案外仲良しな二人。 |